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診療一般に関すること

心的エネルギー(リビドー)について

心理学で備給という用語があります。別名カセクシスともいわれます。その意味は、心的エネルギーが、心の中にあるイメージや外的対象、身体の一部に向けられ、そこに流れ込むことを指します。心的エネルギーを別名リビドーといいます。

この心的エネルギーがどこにどの程度備給されているかで様々な精神症状を誘発します。

このエネルギーが強い精神疾患の代表的なものに双極性障害、ADHD、境界型パーソナリティ障害、摂食障害(過食嘔吐)、強迫性障害などがあります。これらの疾患の方々はもともと心的エネルギー強いため上手く調整しないと不安定な精神状態になりやすいです。仕事や勉強で上手くいかない場合や失敗した際に、よく「反省しなさい」とか「振り返って同じミスを繰り返さないように」など内省を中心とした対処方法が推奨され、周囲が本人に内省を強要することも多いです。

しかしながら心的エネルギーがもともと強い場合、そのエネルギーが内省によって自分自身に向かってしまうと、自己破壊的になったり心がかえって不安定になり精神症状が悪化することがあります。かえって周囲にも大きな被害が及ぶこともあります。内省や反省よりは、それを超える実績や成功を目指して前を向くように励ましたり、行動を促す方がかえって落ち着くケースも多いです。例えると火の妖精であれば火の妖精のように活躍してもらえばいいのであって、水をかけて(内省させて)火を消さないことが大事です。過剰に燃えてあちこちで火事を起こすような行動を起こしているのであれば、そこそこの火事にコントロールする生き方を本人にアドバイスしたり、大火事を起こしても問題ない環境を構築するように本人の努力を促すのがいいかと思います。

また心的エネルギーが時間軸のどこに備給されているかで現在のパフォーマンスは大きく変化します。上手くいかないのは現在ではなく過去や未来に過剰に備給されている場合です。

過去への備給はトラウマ関係の疾患でよく認められます。高校生の診療で多いケースは中学受験や高校受験で希望の学校に入れず、大学受験を迎えて苦悩しうつ病になるケースです。過去の失敗体験がフラシュバックして、目の前の課題を安定的にこなすことができず、勉強に身が入らない状態になってしまいます。勉強できず余計に焦り悪循環に陥ります。過去のある一点に心的エネルギーが備給されている状態で、今ここのエネルギーが枯渇し、うつ状態になってしまうのです。治療として本来なら時間をかけて認知行動療法、トラウマの心理療法を行いたいのですが、受験近くなってギリギリ来院される方も多く時間的制約から対応に苦慮するケースが多いです泣。

未来への備給としては、もちろんトラウマが背景にある場合もあるのですが、夢を過剰に持ちすぎてしまうケースや過度や将来不安で現在の生活がままならないケースなどが多いです。「夢をもって未来へ」とか「夢をもって生きて下さい」と学校の先生は語ることがあります。またマスメディアでもしばしば夢をもって努力して成功した人が称賛され、夢をもつことが推奨され、煽られることもあります。「将来~になる」とか「~大学に絶対合格する」など過剰に意識を未来にフォーカスすることで心的エネルギーが過剰に備給されてしまい、ぐるぐる考える行為そのもので疲弊し、たんたんと毎日勉強をしていく力がなくなってしまいます。夢はあくまで夢であって本来は寝ている状態でみるものです。ちゃんと目覚めてきちんと現実に向き合う方が余程、本当の夢に近づくのは逆説的ですが真実です。将来不安については軽度であればむしろ望ましいこともありますが、その不安のため現実の生活そのものに支障がでるのであれば未来へ過剰な備給と考えられます。


また未来や過去は現在の積み重ねで変わるものであり、重要なのはあくまで現在・今です。過去の出来事は変わらないのですが、過去へのとらえ方が変わります。過去のトラウマを扱う診療でも、現在きちんと仕事している・日常を自分なり精一杯生活していることが治療の基本になります。現実を改善することで、過去に対する評価が変わることをトラウマ診療の一部として利用するという理屈です。現在自分なりにまずまずの生活ができていれば、過去のひどい体験についても「あんな体験したからこそ今の自分がある」と評価を変えることが可能になります。未来についても、当たり前ですが、現在・今の毎日の積み重ねが未来の姿につながっており、現在・今を生きること、つまり心的エネルギーを今に集中することが希望の未来への一番の近道です。バランスとしては過去1、未来2、現在7位が理想と思います。

以上のように心的エネルギーと精神疾患や症状、今ここの重要性について簡単にまとめました。ご自身の治療の参考にしていただければと思います。

患者家族の望ましい態度について

患者家族として本人にどのように接したらいいかよく質問されるのでお答えします。

もともと統合失調症患者の家族研究でいわれていたHEE(high expressed emotion)という概念があり参考になります。本人のことを気にして過度に干渉しすぎたり、病的な行動に対して感情的な表現を強く示す家族HEE家族といいます。HEE家族の場合、服薬を継続していても統合失調症の再燃率が高いといわれております。

HEEを参考に統合失調症以外の精神疾患の患者でも家族としてあるべき姿は以下の3点です。

・病気のしくみを知ること

 本人の病気を一般的な書籍やネットで勉強することが重要です。その際に「薬を使わないで完治可能!」「精神病は病気ではない」云々の偏った情報に惑わされないで下さい。もし可能であればきちんとした精神医学の教科書で勉強してみるのもいいかと思います。

・まずは落ち着くこと

 どうしていいかわからず混乱し、落ち着かない(精神科領域では不穏といいます)家族も多いです。パニックになり、患者さん本人より深刻な症状を示す方もおられます。まずは自分自身をニュートラルな精神状態で安定させることです。自身の安定がひいては、本人の精神症状の安定につながります。場合により自身が心療内科・精神科を受診し、必要なら薬物治療や心理療法を受けることも重要です。

・HEEにならないこと

 以上の点をクリアした上で、本人に対して不用意な刺激をしないこと、相手を無理に変えようとしないことが重要です。わからなければ余計な助言やアドバイスも必要ありません。本人とは適切な距離をとりつつ自分自身の仕事や家事をたんたんとこなしていくことです。知性・理性的な態度を大事にして、相手を変えようせず、自分自身のこころの問題、捉え方の問題であると意識して下さい。

治療の中でのアルコールの危険性について

当院では初診時にアルコールの摂取量について必ず確認させて頂いております。先日の投稿で睡眠が治療の一丁目一番地と記載しましたが、アルコール摂取が多い方は節酒ないし断酒が治療を開始する際の必須条件となります。

特にアルコール依存症の場合、自分はたいして飲んでいないと話す場合も多く(否認という症状ですが)、こちらも酒量を正確に把握できずに治療に行き詰るケースもあります。

どのような心理療法や薬物治療を行ってもアルコールの影響が大きい場合は治癒に至らないケースがほとんどです。

当院でも節酒薬、断酒薬の処方はしておりますが、酒量のコントロールができない場合は集団精神療法ができる医療機関への転院をすすめております。