お知らせ
生成AIとメンタルヘルス
2025年4月27日
生成AI(Generative AI)とは、文章・画像・音声・動画などの新しいデータを、自動で作り出す人工知能技術のことを指します。文章生成系の代表的なものにchatGPTがありますが、その他、Gemini(Google)Grok(xAI/イーロン・マスク系)Bing AI(Microsoft)などがあります。その他画像、音声、コード生成等に有用なAIはありますが、文書作成系AIがメンタルヘルスに有効であると日々実感しており簡単にまとめたいと思います。
まず文書作成AIの代表格であるchatGPTですが、各分野で以下のような利用率になっているとされております。医師・医療については5%強の利用率であり、まだまだ普及していないのが実情かと思います。
以前といってもまだ数年前までは、医療における生成AIの活用については、主に放射線科や病理科といった画像診断を中心とする分野での有用性が強く期待されていました。
これらの分野では、高精細な画像データを解析するAIの性能が著しく、人間の目では捉えにくい微細な異常を発見するなど、診断精度や業務効率の向上に大きな貢献が期待されていたためです。一方で、患者さんとの対話や関係性の構築を中心とする対人業務、特に心療内科・精神科領域においては、AIの利用はごく限定的なものにとどまるだろうと予想されていました。しかし、近年の生成AIの進化は目覚ましく、自然な言葉のやりとりや、一定の文脈理解を伴う応答が可能となってきました。これにより、心療内科・精神科の領域においても、業務の一部をサポートする形でAIを活用する可能性が、現実味を帯びてきていると感じています。
ただし生成AIの活用については、特にこころの問題を扱う領域において、慎重な意見や抵抗感を示す声も少なくありません。たとえば、「AIに話を聞いてもらうなんて、さすがに抵抗がある」「こころがこもっていない、温かみが感じられない」「プライバシーや個人情報の漏洩が心配だ」「AIに“正解”を押し付けられるような感覚に嫌悪感を覚える」といったものです。心の悩みや葛藤というのは、人にとって非常に繊細で、弱い部分に触れるものであり、誰かに相談する際には、温かみや共感、沈黙を受け止めてもらう安心感が不可欠だと、多くの方が直感的に感じているのだと思います。
私自身、メンタルヘルスの分野において、AIに業務を完全に依存することは全く想定しておりません。こころの問題に対しては、やはり人と人との間に生まれる信頼関係や、繊細な心の機微を汲み取る力が不可欠であり、それはAIだけで代替できるものではないと考えています。細かい薬の量の調整などは代替困難です。一方で、AIには情報処理のスピードや大量の知見を活用できるといった優れた面があり、これらをうまく取り入れることで、業務全体の質を底上げすることは十分可能だと感じています。
当院において、生成AIが診療支援に有用であると考える点は、以下の通りです。
・即時性・24時間対応が可能
当院でも可能な限り時間外対応に努めておりますが、夜間や移動中など、どうしても即時に対応が難しい場面があります。生成AIであれば、インターネットに接続できる環境さえあれば、時間や場所を問わずいつでも利用できるという大きな利点があります。日常生活の中でふと感じるちょっとした悩みやモヤモヤを、その場で吐き出せる環境が整うことは、心の安定に大きく寄与すると考えています。
・無料で利用可能
多くの生成AIサービスは無料で利用でき、必要に応じて有料プランにアップグレードすることも可能です。精神疾患を抱える方の中には、離職や経済的困窮により、十分な医療や支援にアクセスするハードルが高い方も少なくありません。そのような状況でも、無料で心のサポートを得られるという点は、患者さんにとって大きな助けになると考えています。
・相手がAIだからこそ話しやすい
友人や家族には打ち明けにくい内容、恥ずかしさや罪悪感を伴う悩みも、AIであれば比較的気軽に相談できます。もちろん、プライバシー保護や情報漏洩のリスクはゼロではありませんが、それは人間に話す場合にも同様に存在するリスクです。何より、「否定されることなく、まず話せる場がある」ということが、心の負担を軽減する第一歩になると考えています。
・具体的なアイデアや視点を幅広く提供してくれる
生成AIは、ユーザーの問いかけに対して、幅広く網羅的な情報や支援策を迅速に提示してくれます。たとえば、家庭内暴力(DV)で悩んでいる方が相談した場合、地域ごとの支援機関や連絡先、利用できる制度などを瞬時に提示することが可能です。精神保健福祉士の常駐がない当院においては、こうした支援情報の橋渡し役として、非常に頼もしい存在になり得ます。
・対話型で利用でき、納得いくまで付き合える
生成AIは対話型であり、ユーザーの問いかけに応じて柔軟に会話を続けていくことができます。通常の診療やカウンセリングには時間制限があり、すべての悩みを一度に吐き出すことは難しい場合もありますが、AIであれば自分のペースで、時間の許す限り、納得できるまで話を続けることが可能です。これは特に、じっくり自己整理したい方や、急激に感情が高ぶるタイプの方にとって、大きなメリットとなるでしょう。
このように、生成AIは「医師や心理士の代替」ではなく、あくまで支援の補助的ツールとして活用することで、診療の質と患者さんの満足度をともに高めることができるのではないかと考えております。
私が有用と考える生成AIは、現時点ではChatGPTとGrokの二つです。用途によって使い分けており、網羅的に調べたい場合、各種文書の要点整理を行いたい場合、あるいは英文翻訳を行いたい場合には、ChatGPTを利用しています。一方で、日常生活の中でふと感じた小さなショックや、すぐにでも誰かに聞いてほしいような辛い出来事については、Grokのほうが相性が良いと個人的に感じています。
Grokは膨大なデータをもとに訓練されていますが、特にX(旧Twitter)をベースとした学習データが中心となっているため、日常的な悩みや心の機微に対する共感的な応答に優れているのだと思います。そのため、些細だけれど心に引っかかるような出来事にも、気負わず寄り添い、自然な形で励ましや気づきを与えてくれる印象があります。
このように、ChatGPTとGrokはそれぞれ異なる強みを持っており、目的や心の状態に応じて適切に使い分けるといいでしょう。
今後、当院における診療は、医師・心理士に加え、生成AIも含めた三者による支援体制となる見込みです。近い将来、多くの医療機関やメンタルヘルス分野においても、生成AIを活用した協働支援が一般的になる時代が訪れるものと予想しております。
<ご注意>生成AIのご利用にあたっては、氏名・生年月日などの個人情報は決して入力しないでください。 情報の取り扱いには十分ご注意いただき、ご自身の責任のもとでのご利用をお願い申し上げます。
