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「受験失敗」をどう捉えるか~「負ける」ことの大切さ~

以下心理士鈴木の記事です。

当院では高校生の方も多く通院されておりますが、高校時代において大きな出来事の1つに「進路選択」が挙げられます。特に大学へ進学する方が多く、皆さんも色んな気持ちで入学式を迎えたかもしれません。

 受験戦争とも呼ばれるように大学受験の競争は年々激しくなっており、受験勉強のプロセスやその結果において、抑うつ・不安状態に陥り、新生活に切り替えられるような気持ちになれない場合もあります。ここでは、大学進学したものの第一希望でない進学先に行くことになった、いわゆる「不本意入学」に焦点を当てて、どのような心構えで大学生活を続けていくか、その1つの選択肢について紹介したいと思います。

〇 頑張ってきた自分を、まずは認めてあげてください

 まずは、これまで頑張ってきた自分のことを大いに褒めてあげてください。結果がふるわず、そんな気分にはなれないかもしれません。しかし、これまで受験勉強を頑張ってきたことは紛れもない事実です。今の「耐えがたい気持ち」こそが、あなたがどれほど本気で頑張ってきたかを示しています。

 合否は1つの結果ではありますが、結果がふるわなかったからといって、これまでの努力の価値が失われるわけではありません。人生においてここまで悔しいと思えるほど何かに打ち込んだ経験を、あなたはすでに持っています。それはあなたが無意味だと思い込んでいるこの時間の中で、確かに育まれてきたものです。どうか一度、自分の努力を正当に評価し、しっかり褒めてあげてください。

〇 落ち込みは自然な感情です

 人間誰しも、自分の思い通りにいかないときには落ち込むものです。

「もう何もやる気が出ない」「自分はダメだ」と思う日もあるでしょう。

それでも多くの人は、誰かに話を聞いてもらったり、自分の中で気持ちを整理しながら、少しずつ前を向いていきます。

 ただ、それでも気持ちが晴れないこともあります。とくに大学受験のように、長い時間をかけて準備し、努力し、人生の岐路に立たされるイベントにおいては、落ち込みの度合いも深くなりがちです。

すぐに切り替えられなくても焦らず、落ち込みや苛立ち、悲しみといった自然な感情に蓋をせずただそのままに感じる時間も大切です。

〇 「プライドを手放す」ことの難しさと大切さ

 受験に失敗したとき、強く揺さぶられるものの一つが「プライド」です。「誇り」という意味よりは、「見栄」に近いと思います。

 「あの大学に行ける自分でいたかった」「この成績でこの大学なんて…」というような感情は、知らず知らずのうちに自分の行動や考え方を縛っていきます。

ですが、ここで問い直してほしいのです。そのプライド、本当に必要でしょうか?

それがあなたの成長を妨げているとしたら、それは持つべき誇りではなく、「成長を拒む鎧」かもしれません。

〇 プライドを手放すには、「ちゃんと負ける」ことが必要

 意外に思われるかもしれませんが、人は勝ち続けることでプライドが高くなるのではなく、行動しないことでプライドが高くなっていきます。

 新しいことに挑戦しない限り、「恥をかく」「失敗する」「人より劣る」といった経験を避け続けることになり、それが結果として「傷つきたくない自分=高いプライド」を育ててしまうのです。

そのため、プライドを手放したいなら、まず動くことです。

未知のことに飛び込む、小さな負けを経験する、自分の無力さを味わう・・・それらが「上手な負け方」を学ぶ過程になります。

〇 「上手な負け方」とは何か?

 負け方にも「技術」があります。また、「上手な負け方」を身に付けやすくなる環境を意識することも大事です。

1  低姿勢(卑屈)になりすぎない、ちゃんと負けること

 「どうせ私なんて・・・」と卑屈になる必要はありません。過剰に自分のことを低く見積もることもまた、今の自分から目を逸らしていることになります。必要なのは、自分を必要以上に大きくも小さくも見せず、「今の自分」をそのまま認めることです。

2  自分の思い通りにならないことの方が多いと知る

物事は、想像以上に複雑な要素の絡み合いで成り立っています。「風が吹けば桶屋が儲かる」や「バタフライエフェクト」という言葉があるように、ある出来事の結果は、無数の変数が絡んで予測不能な形で生じています。自分の努力だけでどうにかなることばかりではありませんし、むしろ「思い通りにならなかった経験」こそが、自分や世界を深く知る機会になることもあります。

その意味で、考えすぎることはむしろ悪影響を及ぼすという記事もあります(Psychology Today; URLはこちら)。この記事では、以下のことを主張しています。

  • 「考えすぎは、あなたを実際よりも賢く、人生を実際よりも予測可能なものに感じさせる」
  • 「どれだけ多くのデータを持っていても、間違いが起こる可能性、そして実際に間違いを犯す可能性を受け入れる必要がある」
  • 「考えが正しいか間違っているかと、自分が賢いか愚かかという信念は切り離すべき。賢い人は頻繁に間違いを犯すことを理解し、間違いを防ぐことに多くの時間を費やしません。ほとんどの人は何らかの間違いを犯して自分が愚かだと感じますが、それは感情的な推論であり、認知の歪み(考え方の癖)です。」

「自分が努力することでその分結果がついてくる」という考えは半分正しく、半分間違いです。上述の通り、事象には無数の変数が絡んでおり、「努力」もその1つではあります。しかし、その影響力がどれくらいのものかは十分理解しておく必要があります。だからこそ、「上手な負け方」を早い段階で学ぶことが重要なのです。つまり、今がその絶好のチャンスであると言えます。

3 新しいことに取り組む

 自分がこれまでやったことのないことに取り組むことは、多くの場合自分の出来なさに直面する場面になるので、「上手な負け方」を身につける環境としてうってつけのものです。「周りに馬鹿にされているかも」と感じることがあるかもしれません。しかしそれこそが、あなたの中のプライドを柔らかくほぐしてくれる体験になります。

〇 受験失敗は、「上手に負ける」最初のチャンス

「戦わずして勝つ」という言葉があります。これは「戦いを放棄する」ことではありません。むしろ、「戦う価値がどこにあるのか」を冷静に見極め、「自分なりの土俵で力を発揮する」という意味です。

大学受験で思うような結果が出なかったことは、「負け方を知る」という大切な機会でもあります。そしてその経験は、あなたの人生において決して無駄にはなりません。「プライドを手放す勇気」と「上手に負ける技術」は、これからの人生をしなやかに生き抜くための、かけがえのない力になるはずです。

ここまではどちらかというと心持ちに関する話でしたが、以降は今後の現実的な戦略についても紹介いたします。

1 学内の交換留学制度をチェックする

交換留学先で得られた単位は今通っている大学の修了要件となる単位として認められることが多く、必ずしも休学・留年をする必要がないことが多いです(ただし、大学によるところも多いため個別に確認する必要はあります)。今の大学に不満を感じているなら、一旦別の大学に行くことで、物理的にも距離を取れるようになります。また、上記に挙げたような「新しいことに取り組む」と重複する形で、自分の価値観の柔軟性を向上させることにも役立ちます。コロナ禍に比べると格段に海外に行きやすくなっており、近年では学内外問わず留学のための奨学金も充実しています。

2  資格取得の勉強

特に国家資格は、学歴に代わる“証明”として社会的に見られることも多く、自分の努力を形にしやすいため、学歴をある意味で上書きすることができます。ただし、これも現実的な実力と資格の難易度をしっかり見極めたうえで、挑戦する必要があります。「プライドをなくす」とは、単に諦めることではなく、「今の自分を、あるがままに認識し、受け入れること」なのです。あくまでその素地を身につけた上で、取得する資格の選定・資格勉強を行う方が、ご自身の力を発揮しやすくなるはずです。