お知らせ
睡眠の質💤は大切です
2025年10月12日
近年、睡眠時間の長短よりも「睡眠の質」や「睡眠休養感」が健康の維持・精神の安定に深く関与することが明らかとなっております。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」*1でも、熟眠感の重要さが指摘されております。NRS(Non-Restorative Sleep:非回復性睡眠)とは十分な睡眠時間をとっているにもかかわらず、朝の目覚めや日中の状態に「休んだ感じがしない」「疲れが取れない」睡眠をさします。

これまで睡眠の質を簡便に評価する方法は限られており、主観的評価にはピッツバーグ睡眠質問票、客観的評価には終夜ポリグラフ(PSG)が用いられてきましたが、日常臨床でそれらの検査を施行するのは非常に困難です。そのため「睡眠の休養感」や「睡眠による回復感」を患者自身の主観で数値化・言語化して評価した5件法による主観的質問形式が広く用いられております。
様々な精神障害ではNRSが出現しやすく、特に双極性障害では睡眠の質の悪化がその後のうつ状態、軽躁状態、希死念慮の悪化と関連することが報告されております*2。また「不眠」よりもむしろ「睡眠休養感のなさ」がうつ症状や希死念慮と強く関連しているといわれております。
NRSに影響を与えるものとして徐波睡眠(深いノンレム睡眠)、REM潜時(睡眠開始から最初のレム睡眠までの時間)、総睡眠時間、生活習慣、嗜好品、性格、関連する睡眠障害、身体疾患などがあげられます。特に2時間以上の睡眠負債があるとNRSが出現しやすく、慢性的な睡眠不足を「寝だめ」で補うことはできないといわれており注意が必要です。1時間の睡眠負債を解消するには平均4日、最大9日を要するとされ、十分な睡眠を継続的に確保することが重要です。
生活習慣として、早食いや夜食、朝食欠食、運動不足、長時間残業、電子機器の過剰使用などがNRSと関連し、また飲酒、カフェイン摂取、喫煙もリスク因子となります。さらに、几帳面で責任感が強いメランコリー親和性性格傾向が強い人ほどNRSの頻度が高いとされております。関連する睡眠障害には睡眠時無呼吸症候群(SAS)、レストレスレッグス症候群(RLS)、周期性四肢運動障害などがあり、入眠時の下肢のぴくつきによる覚醒が休養感の低下につながることもあります。心疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全)や肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病、線維筋痛症・関節リウマチなどの身体疾患とも関連が報告されております。
睡眠薬については、徐波睡眠(深いノンレム睡眠)を増やし、REM潜時(睡眠開始から最初のレム睡眠までの時間)を延長する薬剤がNRSのリスクを低下させる可能性があります。それらの要素を考慮し睡眠薬をまとめると以下の表の様になります。この表を参考にしつつ熟眠感を得られるような処方を組み立てることが重要となります。

NRSの 治療の基本方針としては、生活指導による睡眠衛生の改善が第一であり、十分な睡眠時間の確保、規則正しい食事と運動習慣、飲酒やカフェインの制限、就寝前の電子機器使用の抑制などが必要不可欠です。さらに、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群などの睡眠障害、心疾患や代謝疾患などの身体疾患の早期発見・治療も重要です。薬物療法では、徐波睡眠やREM潜時に対する薬理作用を考慮した適切な薬剤選択をしていきます。
このように、NRSは単なる「眠れない」ではなく、「眠っても疲れが取れない」という睡眠の質の側面を反映する概念であり、精神・身体の健康双方に密接に関わる重要な臨床的指標となっております。
*1 2023健康づくりのための睡眠ガイド2023. 厚生労働省.
*2 Stepan, M. E., Franzen, P. L., Teresi, G. I., Rode, N., & Goldstein, T. R. (2024). Sleep quality predicts future mood symptoms in adolescents with bipolar disorder. Journal of Affective Disorders, 363, Article 12208217.