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エンプティ・チェアについて

 初めまして、心理士の藤井です。今回初めてコラムを書かせていただくので、自己紹介を兼ねて私が専門としている療法について知っていただけたらと思っています。まず最初に心理療法、カウンセリングに幾つか種類があることをご存知でしょうか? クライエント中心療法、認知行動療法(CBT)、精神分析、プレイセラピーなどなど、今もなお複数の療法が統合されながら、次々と新しいものが生まれています。現代では、当院でも取り入れているCBTの需要が高まり、主流となっています。そんな中、私は古典的なクライエント中心療法をベースとして普段カウンセリングを行っています。クライエント中心療法をご存知ない方もいらっしゃると思うので、簡単に一言でまとめると“クライエント自身の治癒に向かう力を信じ、受容と共感”を大切にするスタンスです。先日私は、このクライエント中心療法をベースにしたEFT(エモーション・フォーカスト・セラピー)の研修に参加しました。EFTとは日本では比較的新しい療法で、他の療法を取り入れた統合的な療法です。その1つにゲシュタルト療法の技法も使われていて、2つの椅子を使うエンプティ・チェア(空の椅子)という技術を今回はメインにロールプレイを行いました。今回はロールプレイの中での私のクライエント体験を読んでいただきながら、エンプティ・チェアについて知っていただけたらと思います。

 エンプティ・チェアでは2つの椅子を使います。片方の椅子には批判される“体験者”、そしてその向かいに置いた椅子には“批判者”を座らせます。クライエント役の私がこの2つの椅子を行き来することで、自分の中で葛藤している2者を実際に声に出して再現していきました。まずは“批判者”の椅子に座り、“体験者”の椅子に自分がいることを想像しました。と言っても、私は自分の姿を想像することが難しく、そこの椅子に私がいると思い込むことでセッションに取り組みました。

 まず“批判者”として私は、向かいに座っている自分に向かって「相手に感情を出すことは恥ずかしいから、出すな!」と批判しました。“批判者”になっている時には、思う存分、思いっきり、向かいに座っている“体験者”を徹底的に批判します。最初は“体験者”を傷つけているようで抵抗感がありますが、言い始めると気持ち良さを覚えます。なぜなら、普段自分自身の中で葛藤している声だからです。アニメなどで主人公の肩の上で天使と悪魔が話し合っているシーンを目にしたことがあるかと思いますが、まさにそれが行われています。アニメではとても分かりやすく視覚的に天使と悪魔という2つのキャラクターが登場しますが、実際には心の中でその2つが混ざり合っている状態になっています。そのため、私たちは頭の中でグルグルと考える状態になり、そのサイクルからなかなか抜け出すのが難しく感じられます。これをエンプティ・チェアを利用することで、1つ1つの感情をあるがままに表現し、それまで気づかなかった側面に気づき、それぞれの感情を尊重し受け止めることができます。すると、反発しあっていた2つの感情が、不思議とお互いを理解し合い、歩み寄り、統合されていく経験をしました。“批判者”が最初は「自立すること」を“体験者”に求めていましたが、最終的には“批判者”が「一人で寂しい、孤独を感じる」と感じはじめ、“批判者”と“体験者”が一緒に歩んでいくというというところで、ロールプレイが終了しました。

 私の場合には2つの相反する感情が統合されましたが、人によっては“体験者”が“批判者”に対してニーズを示すこともあります。私たちは普段からニーズを持っています。ですが、ここでのニーズはより深いものであり、意識していないものであることが多いです。例えば、勉強や仕事をしている時にチョコレートのような甘いものを食べたいと思ったことはありませんか?心理的なニーズとしては「チョコレートを食べたい」がニーズとなると思います。しかし、本来のニーズは「疲れたから、癒されたい」ということになります。つまり、チョコレートでもあなたのニーズは満たされますが、他の甘いものを食べたり、楽しいことをすることでもニーズは満たせます。もしあなたがダイエットをしたい、自分の身体の健康が気になるけど、勉強や仕事のストレスからチョコレートを食べることをやめられなかったとしましょう。その時に、チョコレートを食べることが本来のニーズではなく、「疲れを癒したい」というニーズに気付けば、ダイエットや健康管理を犠牲にすることなく、葛藤が軽くなるかもしれません。

 今回はEFTのエンプティ・チェアについて紹介しましたが、読んでみていかがでしたでしょうか?興味を持っていただけたら嬉しいですが、このワークに抵抗を感じた方もいらっしゃると思います。人によって合う合わないもありますし、ワークを行う心の準備のタイミングも人それぞれです。EFTや私が普段行っているクライエント中心療法では、クライエントの気持ちを大事にしています。もし「(今の)自分には厳しい」と思ったら、その気持ちをぜひ教えてください。その時に感じた、その気持ちがとても大事です。