お知らせ

双極性障害への対処方法

2021年6月9日

躁鬱病は現在では双極性障害といわれます。従来はうつ病などの気分障害の中の一形態と考える時期もありましたが現在は統合失調症に近い病態と捉えるほうが一般的です。病気としてはより精神病により近い「脳そのものの病気」ということです。

よって双極性障害でもうつ状態になりますが、うつ病のうつ状態とは全く病態が異なるので治療戦略も全く違ったものになります。

双極性障害というのは下記の図のように躁状態という元気いっぱいの状態と、うつ状態という鬱々として元気がない状態を周期的に繰り返す病気のことです。周期の長さは長いものは数年から短いものは数日まで様々です。

治療で最も重要なのは大きな波を作らずに波をなだらかにすることです。躁鬱の気質の方は完全に波をなくすと生きた感じがなくなると話す方が多いので、完全に波をなくすことはしない方がいいかなと思います。

波をなだらかにする方法について以下にまとめます。

自分が今どのような気分であるのかを言えるようにする

簡単そうですが意外と難しいです。明らかに躁状態なのにそれが分からずに「これが本当の私よ!」とかいって躁状態を楽しんで、その後にうつ状態に落ちて後悔100倍みたいな人が沢山おられます。うつ状態でもそれがうつ状態と分からずに無理に頑張って動き回ってイライラして怒っている方や、「生きていても意味がない」とか言って自殺を考える方など様々な方がおられます。どんな病気もそうですが、自分がどのような病状なのかを知ることが治療上最も重要になります。特に双極性障害では状態によって使用する薬が異なるため、自分の「気分」が躁と鬱の間のどの辺かについて把握することはまず最初に必要なことになります。

薬について学ぶ、うまく使う

双極性障害で使用する薬は大きく2つのカテゴリーに分けられます。気分安定薬と抗精神薬です。これらの薬剤を上手く組み合わせて大きな波をなだらかにするのです。波をなだらかにするためには特に躁状態のときにその波を抑えることが大事です。うつ状態の時に使用する薬もありますがうつ状態は休んで回復を待つことが基本になります。繰り返しますが波を抑えるためには躁状態を抑えることが戦略上重要なキモになります。

気分安定薬:代表的な気分安定薬には炭酸リチウム(リーマス)、バルプロ酸(デパケン)、ラモトリギン(ラミクタール)、リボトリールなどがあります。リボトリールは厳密にいうと気分安定薬ではなくBz(ベンゾジアゼピン系)の薬ですが作用としては気分を落ち着かせる気分安定として働くので気分安定薬に臨床上分類されます。

炭酸リチウムは最もよく使用される気分安定薬ですが、副作用が多いためやや使いづらいです。もちろん内服する量に気をつければ大した問題はありませんが、過量服薬などした時に命に関わることもあるため注意が必要です。定期的な採血で血中濃度の測定も必要になります。また催奇形性があるため妊娠することは基本的にできませんのでその点の留意も必要です。躁状態で多幸的な状態になる方によく使われます。

次にバルプロ酸ですがこれも炭酸リチウム同様に副作用はやや多く催奇形性があるため妊娠には注意が必要です。定期的な採血が必要なことも同様です。躁状態で攻撃性が上がる方や興奮が強い方によく使われます。

ラモトリギンですがこれは躁状態ではなく、うつ状態の改善や再発予防などに使用される気分安定薬です。炭酸リチウム、バルプロ酸と比較して副作用は少ないため使いやすい面もありますが、ピルとの併用や薬疹の出現に注意が必要です。

抗精神薬:抗精神薬は主に統合失調症で使用される薬ですが双極性障害でも頻用されます。双極性障害が統合失調症により近い病気と考えられていることにも合致します。双極性障害で使用する抗精神薬の代表的なものにオランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル、ビプレッソ)、ルラシドン(ラツーダ)、アリピプラゾール(エビリファイ)などがあります。躁状態の時などには高用量のエビリファイやジプレキサを使用することがありますがそれぞれアカシジア、体重増加という副作用がありやや使いづらいです。またうつ状態ではピプレッソやラツーダが有効なので比較的頻用しております。また当院ではクエチアピンを12.5㎎~750㎎の間の量で調整して気分を一定に保つことを目標にしております。気分が高い時、低い時両方で効果があるのでセルフケアの一助として自身でクエチアピンの量を調整するということを推奨しております。

抗うつ剤:最後に抗うつ剤についてです。使用することもありますが原則抗うつ剤は使用せず気分安定薬と抗精神薬で波を小さくすることが重要です。抗うつ剤でうつ状態を改善したとしてもタイミングを間違えると躁転する結果になり逆に波を大きくしてしまうからです。

生き方を適当にする

双極性障害の方の気質というか特徴に気分屋であるというものがあります。適当というかその日暮らしというかそんな感じの方々です。波人間とでもいっていいかなと思います。その日の気分によって発言内容もコロコロ変わります。職業としては創作活動をする芸術家や作家などに多い印象ですがもちろん普通の会社員や主婦でも沢山おられます。適当にやっていれば問題ないものの、他者からの抑圧や自分自身で生活スタイルなどを抑制的に我慢をしていると逆に波が大きくなる傾向にあります。特に現代社会で会社員などやっていると、「きちんと時間どおりに安定してパフォーマンスを上げる」といった波人間にはきついことも求められるため、生きづらい環境でもあります。ある程度のゆるさ・遊びというものが病状の安定に必要です。またあえて小さな波を作るなどの工夫が、大きな波を防ぐために必要なこともあります。

対人関係やイベントに気をつける

双極性障害の方で波が大きくなる要因に外からの刺激というものがありますが、その中で最も大きいものは対人関係のストレスです。人に怒られたり、欠点を指摘されたり、トラブルを起こしたりした場合に波が急激に大きくなる傾向にあります。また逆に同じ高いテンションの人から刺激を受けてそれに同調してテンションが上がっていく人もいます。苦手な人と距離をとる、SNSでの交流に気をつける、テンションの高い人に注意するなどの生活上の配慮や工夫が必要になります。特にきっちりかっちりした人は波人間と相性が合わないため、「人格がどうこう」とか「人間的にどうこう」とか言って人格否定してくることもあるので注意が必要です。また逆に波人間同士でもお互いに同調して波が大きくなるなどあるので、楽しくても距離をとることが望ましいこともあります。また楽しいイベントについても気分の波を大きくすることがよくあります。コンサート、ライブなど躁状態で調子にのって参加したとして気分がよくなっても、終わった後に疲れて比較的長いうつ状態になり後悔することもあります。

当院のHPの「セルフケア」のどこかにも記載しましたが、根本的にはエネルギーが強い人が双極性障害には多いと思います。何らかのエネルギーの塊(自分)があってそれが刺激されると爆発したり波が大きくなったりするイメージでいいのかなと思います。

自分自身を操縦する

自分というエネルギーの塊つまり野獣を操縦すること、うまい猛獣使いになることが最終目標です。患者さん自らが自分の主治医になるのです。患者さん自身の猛獣使いの能力が上がると、私の診療の負担は少なくなりお互いに楽になります。操縦するときに特に注意が必要なのは躁状態のときです。躁状態で楽しんでいるときにわざわざテンションを落とす薬を飲むというのは結構難しいことです。うつ状態は辛いので何とかして下さいという方が多いのですが、躁状態では通院もしなくなる方もおられます。躁状態の結果として人間関係を壊してしまったり、浪費してお金がなくなってしまったり、後々ひどいうつ状態になり後悔するといったことを繰り返しながら学んでいくのですね。

以上、双極性障害への対処方法についてまとめました。この病気で通院中の皆様にも是非読んで頂きたい内容です。


うつ病の診療の流れ 職場復帰

2021年6月3日

うつがどれくらい回復したら職場復帰できるのかは非常に難しい問題です。うつ状態が回復してくると趣味くらいはできる状態になります。好きな遊びはできる段階です。その段階とフルタイム勤務が普通にできる段階の間はかなり大きく、この間を埋めることが職場復帰するのに重要になります。大手の会社や公的な機関では職場リハビリテーション(職リハ)といって短時間勤務から徐々に負荷を増やしていく「慣らし勤務」が行われます。職リハがある会社あるいは組織であれば、職場復帰は比較的スムーズに行えます。短時間勤務程度まで可能であれば「職場復帰可能」の診断書を作成可能だからです。しかしながら、会社によっては「完全に治ってから復職してください」という所もあり、これは非常に難しい場合があります。骨折も含めて回復するためにはリハビリは必要でありますが、自宅で仕事のリハビリを行うこと自体にやや無理があるからです。会社近くまで行ってカフェで半日過ごすとか図書館で過ごすとか、仕事関連の勉強をするなどの指示をだすことがありますが、自宅で行うのでなかなか難しいこともあります。よって当院では近隣の事業所に職場復帰のためのリワークをお願いすることもあります。


うつ病の診療の流れ 再発予防

2021年6月3日

今回のうつ状態の再発予防についてお話させて頂きます。

「うつ病を初発した患者の約50~60%が二度目のエピソードを生じ、再発を繰り返すごとに、再発率が上がる(患者の半数は5年以内に再発する)」というデータがあります。特に再発を繰り返すごとに病相はながくなる、つまり治りにくくなるといわれております。足の骨折でも同じで骨折を繰り返すと複雑骨折などのややこしい病態になりますよね。とにかくうつ状態・うつ病の再発を予防することは非常に重要です。以下に再発予防のために必要なことをまとめます。


うつ状態についてよく理解し自身の調子をモニタリングすること

まずはどのような症状が「うつ状態」であるのかしっかり把握することが一番大事です。以前に書いたうつ状態の症状について大まかに把握することはもちろん、ご自身で前回どのような症状がうつ状態の兆候であったかを覚えておくことが重要です。何かしら兆候があったら以下に述べる早期対応が重要です。兆候として多いのは、不眠、朝の気分不快、不安・イライラなどの症状です。寝つきが悪くなって、朝起きてもパッとせず、ちょっとしたことで不安・イライラしだしたらうつ状態が始まっている可能性があります。またこれらの症状を常にモニタリングすることも大事です。

とにかく睡眠・睡眠・睡眠!

うつ状態の症状で不眠がありますが、不眠が強くなると脳が休まらずうつが強化されます。うつ状態の治療の一番は十分な質のよい睡眠を確保することなので、薬の内服・自律訓練法・リラクゼーションなど様々なものを駆使して十分な睡眠を確保することがうつ状態の再発予防にはとても重要です。自律訓練法は当院の心理士が行っておりますのでご相談下さい。

自宅に薬を備蓄しておきセルフメディケーションを行う

いざというときの脳を休める薬(Bz系の薬)や眠剤を2週間程度備蓄しておくことをおすすめ致します。うつ状態の兆候があった場合、家に薬があればまずそれらの薬でセルフメディケーションを行い脳を休めることで早期に対応が可能になります。数日セルフ対応しても駄目な場合はクリニックへの受診が必要と考えます。

何かあればすぐにクリニック受診を(電話で予約できます)

セルフ対応しても改善しない場合、あるいは薬をなくした場合、うつ状態かどうか客観的な指標を得たい場合などは電話で予約して来院下さい。火曜日~土曜日の診療時間に連絡頂ければ基本的に当日対応致します。

職場で相談体制を構築しておく

会社員であれば職場での相談体制の構築も大事です。調子が悪いときに、早引きするとか、有給をとれるとか、業務量を減らしてもらうことなどの対応が早期にできることが望ましいです。普段からの上司や同僚との円滑なコミュニケーションが必要になりますが、会社によっては全く配慮などしない所もありますので難しいところもあります。

認知行動療法(CBT)をマスターする

認知再構成法により自身の元々の偏った認知、否定的認知に気付きそれを修正することで考えすぎて思考の罠にはまることを防げるようになります。自身の行動パターンを意識化して俯瞰することなども重要です。メタ認知や第3の目ともいいますが、他者や天からの視点で物事を捉えることで思考や行動パターンを脳にとって負担に少ないものに変えるといったイメージです。当院でも施行しておりますが、時間がない方などは適当な書籍を購入して読んでもいいのかなと思います。うつ状態の再発予防には効果があるといったエビデンスもありますので再発予防には重要なツールの1つです。

以上うつ状態の再発予防についてまとめました。ただし再発予防において「無理をしない」ことが最も重要であることはいうまでもありません。