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小児ADHD治療における新たな選択肢:デジタル療法アプリ「エンデバーライド」について

ADHDを抱えるお子さんの治療目標は、不注意や多動性、衝動性といった特性そのものを完全に消失させることではなく、お子さんが自身の特性と上手に向き合いながら、学校や日常生活において本来持っている力を最大限に発揮できるようになることです。当院では、単にお子さんやご家族の感情に安易に同調するような表面的なアプローチではなく、医学的根拠に基づいた環境調整や心理社会的治療を第一ステップとし、治療戦略を組み立てていくことを基本方針としております。近年、こうした心理社会的治療や従来の薬物療法に加えて、デジタル技術を応用した新しい治療補助の選択肢が登場しており、その一つがADHD治療補助プログラムである「ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)」です。

エンデバーライドは、汎用のモバイル端末にインストールして使用する管理医療機器プログラムです。大脳の前頭連合野(前頭前野)の機能を賦活化させることを目指して設計されています。ADHDの主要症状には、注意処理やワーキングメモリ、行動の抑制などを司る前頭前野の機能不全が関与していると考えられており、特に複数の情報や刺激を同時に処理するマルチタスクの能力低下が指摘されています。本アプリでは、端末を左右に傾けて障害物を避ける「ステアリング」と、画面に現れる標的をタイミングよくタップする「タッピング」という2つの異なる課題を同時に実行させることで、脳の特定領域を刺激します。重要なのは、ただ同じ課題を繰り返すのではなく、お子さんごとのパフォーマンスに合わせて難易度がリアルタイムで動的に調整される点にあり、この最適化された負荷が前頭前野の効率的な活性化を引き出す鍵となっています。

このプログラムの有効性と安全性については、国内で実施された第Ⅲ相検証的臨床試験(A3831試験)によって客観的なデータが示されています。6歳以上18歳未満の小児ADHD患者を対象とした試験において、環境調整などの通常治療のみを行った群と比較して、エンデバーライドを1日約25分(5分のミッションを5回)、6週間継続して使用した群では、ADHD評価スケール(ADHD-RS-IV)の不注意スコアが統計学的に有意に改善しました。また、多動性や衝動性のスコア、および合計スコアにおいても明確な群間差が認められており、デジタルアプリを用いた介入がADHDの主要症状全般に対して有効な補助療法となり得ることが実証されています。なお、有害事象として欲求不満耐性の低下や頭痛、悪心などが一部で報告されているため、使用にあたっては主治医による定期的な経過観察と、客観的な使用状況の確認が不可欠です。

治療を計画通りに完了し、確実な治療効果を得るためには、家庭内におけるサポートと継続のための環境づくりが求められます。お子さん自身が毎日の実施時間を決めて約束を守ることや、保護者の方が日々の実施状況を「エンデバーライド継続日記」や付属の「42日間チャレンジすごろく」などを活用して視覚的に記録・把握することは、モチベーションの維持だけでなく、受診時に医師へ正確な情報を共有するためにも重要です。

1. アプリ本体の価格(特定保険医療材料)

エンデバーライドは一般的なゲームではなく「医療機器(プログラム医療機器)」として国に認められているため、保険が適用されます。

  • 保険償還価格(公定価格): 14,500円(3割負担の場合: 4,350円 公費の場合:0円)
  • 回数の制限 患者1人につき「最大2回まで」算定(処方)可能です。 ※1サイクル(6週間)の治療を終えたあと、医師が必要と判断した場合はもう1サイクル追加できますが、2回目を処方する場合は「初回から少なくとも10週間以上」あける必要があります。

2. 指導・管理にかかる費用

医師が患者のアプリの使用状況(クラウド経由で確認できる実施日数や回数など)をチェックし、診察時に適切な指導や管理を行うための費用です。

2026年の保険適用のルールでは、「B005-14 プログラム医療機器等指導管理料」という点数が適用されます。

  • プログラム医療機器等指導管理料: 月1回 90点(3割負担で270円 公費の場合は0円)
  • 導入期加算(初月のみ): 50点(3割負担で150円 公費の場合は0円)

当院では、こうした新しいデジタル医療機器を含め、個々のお子さんの状態に応じた最適な治療プログラムをとりいれ、日常生活の適応能力向上を共に目指してまいります。

参考文献

  • 齊藤万比古(編): 注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン 第5版, 東京, じほう, 2022.
  • Mikami K, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2025; 79(8): 447-457.
  • American Psychiatric Association: DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(日本精神神経学会 日本語版用語監修), 東京, 医学書院, 2023.