お知らせ
PMDD(月経前気分不快障害)に対する栄養アプローチ:セロトニンを脳内で増やす食事について
2026年7月6日
月経前に生じる情緒不安定や抑うつ、強いイライラといったPMDD(月経前不快気分障害)の症状は、気の持ちようで解決できるものではありません。これらの症状の背景には、排卵後のホルモン変動に伴う脳内の神経伝達物質「セロトニン」の機能低下が深く関わっていることが分かっています。根本的な改善を目指すためには、感情のコントロールを試みるよりも前に、まずは脳内のセロトニンを増加させることが必要となります。

しかし、セロトニンそのものが豊富に含まれる食品を単に摂取すればよいというわけではありません。食事から取り込まれたセロトニンは、脳の血液脳関門(BBB:Blood-Brain Barrier)を通過することができないため、脳内のセロトニンを増やすには、その前駆体である必須アミノ酸「トリプトファン」を摂取し、脳内で一から合成させる必要があります。このトリプトファンは、卵や鶏肉、魚、大豆製品、乳製品などに多く含まれますが、日本人の食生活においては「納豆、豆腐、卵、鮭」といった伝統的な組み合わせが効率的です。さらに、トリプトファンは単独では血液脳関門を通過しにくいという性質を持っている点です。適量の炭水化物を同時に摂取することでインスリンが分泌され、他のアミノ酸が筋肉に取り込まれる結果、相対的にトリプトファンが脳へ運ばれやすくなります。PMDDを抱える女性が黄体期に甘いものや炭水化物を欲するのは、脳がセロトニンを合成しようと欲する生理的な反応の一種とも言えます。
脳内に取り込まれたトリプトファンがセロトニンへと形を変えるため、合成を円滑に進めるための「補助因子」となる栄養素が欠かせません。具体的には、マグロやカツオ、バナナ等に含まれるビタミンB6、ほうれん草やブロッコリーに含まれる葉酸、貝類や卵に含まれるビタミンB12、そして赤身肉やレバーに豊富な鉄や、ナッツ類・海藻類に含まれるマグネシウムが必要です。これらに加えて、神経細胞の炎症を抑え機能を安定させるサバやイワシなどのΩ(オメガ)3脂肪酸、さらにはセロトニンの前駆体を産生する腸内環境を整えるための発酵食品(ヨーグルト、納豆、キムチ)や食物繊維の摂取も不可欠な要素となります。こうした身体側の代謝システムを適正化していくことが、不安定な心を安定化させるため必要となります。日々の食事を「脳への投資」と捉え、必要な栄養素をきちんと選択していくことが、毎月の症状に振り回されない心身を作るための必要な一歩となります。
当院では以上のような背景を考慮した診療を行っております。初診ご予約希望の方はまずは診療相談または予約サイトからお問い合わせください。
参考文献
Lanza di Scalea T, Blocker ME, Pearlstein T: Perimenstrual and Peripartum Depression. Med Clin North Am 103(4): 613-628, 2019.