お知らせ
老化を予防しましょう!
2025年8月24日
老化現象について、最近の研究*1にて44歳と60歳に大きな節目があることがわかってきております。研究によると老化は徐々に進むのではなく、ある時期に急激に老化が加速するようです。心血管系関連、脂質、アルコール、カフェイン代謝、皮膚・筋肉老化に関連する分子の急変は44歳頃、免疫調節、炭水化物代謝、腎機能関連の分子が特に変動するのが60歳頃と指摘されております。これは脳の老化にも大きく関連しておりメンタルヘルス上も注意が必要と考えられます。
老化研究で注目されている動物にハダカデハリネズミという動物(下図)がいるようです。げっ歯類の仲間は通常2〜4年しか生きないのに、ハダカデハリネズミは30年以上生きるといわれています。さらに老化に伴う典型的な疾患(がん、糖尿病、神経変性など)が非常に起こりにくく、「老化研究の希望の象徴」とされております。アニメ『ドラゴンボール』のサイヤ人のように若い期間が非常に長いのです。
また精神科の臨床において以下のような①~③点で「老化」を意識しつつ対応にあたることがあります。
①治癒(寛解)という考え方
40代でうつ病を発症した場合、休養・抗うつ薬・認知行動療法などを組み合わせれば「寛解」に至ることは比較的多いです。しかし実際には、40代以前の30代の頃と同様のパフォーマンスを100%取り戻すことはほとんどありません。意欲や抑うつが回復したとしても以前の60~80%程度にとどまるのが臨床実感です。そのため患者さんから「まだ病気なのでは」「以前の活力がない」と言われることもありますが、老化現象で回復しきれない、あるいは回復したとしても限界があることが多いです。原因が老化である場合、現時点では残念ながら諦めていただくことになります。
②老年期精神病
65歳を超える方に、抑うつ・不安・意欲低下といったうつ状態に加え、記憶障害や軽度の妄想など、様々な精神症状が混在することがあります。どの診断にも当てはまらず、「老年期精神病」と暫定的に呼称することがあります。老年期精神病の背景には脳の老化があり、孤立を防ぐ環境調整や少量の薬物治療で対応することが多いのですが、改善は限定的で慢性化しやすいのが特徴です。これは誤嚥や老眼、高血圧、便秘、頻尿、皮膚乾燥、骨粗鬆症など、他の老化現象と同様の性質を持ちます。
③不眠と老化
不眠も老化で悪化する症状の一つです。ホルモン分泌の変化、神経伝達物質の変化などが背景にあるといわれております*2。当院でも不眠症の方が数多く来院されますが、40代以上の方が多くを占めております。「薬を辞めたいけれど辞められない」「薬の依存が不安」とおっしゃられる方も多いのですが、不眠も老化現象と伝えると驚かれます。赤ちゃんと高齢者の睡眠の量・質を比較すれば納得しやすいと思われますが、不眠症が老化現象といわれると実感として納得できないのは理解できます。
老化に向き合う態度としては大きく2つに分けられます。「仕方がない」と受け入れる態度と「若さを維持しよう」と抗う態度です。もちろん仕方がないと諦めることも必要な心理と考えますが、ここでは科学的に示されている老化防止の方法を整理したいと考えております。
分子生物学的には老化と関係するものに、ミトコンドリアの活性低下、オートファジーの活性低下が関係するといわれております。ミトコンドリアはエネルギー産生とホルモン調整の中心です。「いじめる」こと(酸素不足・栄養制限・運動負荷)が活性化につながります。オートファジーは細胞内の不要物を分解・リサイクルし、細胞を“新しく保つ”仕組みです。心臓や脳など細胞が入れ替わらない臓器では特に重要です。これらの活性低下をいかに抑えるかが老化進行を抑えるために有効とされております。
また老化細胞というものも存在します。老化細胞は周辺の元気な細胞に悪影響を与え、周囲の細胞まで老化させてしまいます。人間社会でも、1人毎日悪態をつく人が職場にいると周囲の人みんなが精神的に疲弊する現象に似ています。老化細胞、恐るべしです。さらに最近の研究では老化細胞を除去することも可能とされ、そのような薬剤の開発が進んでおります*3。しかしそのような薬がたとえ上市されても高額である可能性が高く、一般的に利用されるのはまだ現実的でないと想定されます。
老化対策として現実的に可能なこととして以下の4点が挙げられます。
①食事
カロリー制限は酵母から霊長類まで多くの生物で寿命延長効果が確認されております。代謝による酸化ストレスを減らし、ミトコンドリアやオートファジーの機能を保てるためです。よくいわれる「腹八分目」が健康と長寿に良いとされる科学的裏付けです。過食は老化を促進するといえます。さらに断食・ファスティングについては、12〜16時間の空腹時間を作るとオートファジーが活性化し老化予防に有効とされます。1日のうち昼をほとんど食べずに過ごすと、おおよそ12時間の空腹が確保できます。栄養素としては、タンパク質は筋肉量を保つために高齢者では特に重要で、過不足なく摂ることが大切です。脂質としてはオメガ3脂肪酸(魚油、亜麻仁油など)が炎症を抑制し老化関連疾患予防に有効とされ、積極的に摂取し、高脂肪食はオートファジー活性を低下させるため避けることが望ましいです。炭水化物では精製糖質(砂糖・白米・白パンなど)は血糖スパイクを起こし、AGEs(糖化最終産物)を増やして老化を促進するとされます。この点で早食いは血糖スパイクの観点からNG行為です。その他、塩分過多に対処するものとしてカリウムが重要で、カリウムは野菜・果物などに含まれます。野菜・果物に加えて豆・全粒粉・ナッツなども長寿に貢献すると最近の研究でわかっております*4。また食事スタイルとして有名なものに地中海食と和食があります。地中海食は野菜・果物・オリーブ油・魚を多く摂る食事パターンで認知症リスク低下、心血管病予防に有効とされます。和食は発酵食品・魚・野菜・豆類が中心で腸内環境を整え、長寿との関連が多くの疫学研究で示されております。和食については塩分過多が懸念されますが、野菜・果物からのカリウム摂取で対応することが可能です。
②運動
運動は様々な研究*5で老化防止に有効とされております。ミトコンドリアやオートファジー活性化、炎症抑制、テロメア保護などを介して効果を発揮します。有酸素運動としては1日30分、週5日のウォーキングや軽いジョギングを続けるだけで、心臓も脳も若々しく保ちやすくなります。歩数でいうと5000歩程度です。筋トレも有効で、特に下半身を鍛えるスクワットなどが推奨されます。最近話題になっているサルコペニア(加齢性筋肉減少症)の防止には必須です。ヨガや太極拳などの柔軟・バランス運動も有効です。
③睡眠
睡眠は非常に重要です。睡眠対策については当院でお役に立てる分野です。様々な対策をしても眠れない場合は睡眠薬を積極的に利用していただければと思います。睡眠はオートファジーが活性化する時間であり、ホルモンバランスのリズム調整でも必須です。深いノンレム睡眠中に成長ホルモンが分泌され、筋肉・皮膚などの修復が行われます。特に夜間に分泌されるメラトニンは「抗老化ホルモン」と呼ばれ、細胞のDNA酸化を防ぐとされています。つまり睡眠をとる際には夜間に規則正しいリズムで眠ることが重要です。当院では「0~6時」の時間帯は必ず睡眠をとることを推奨しております。ただしその前後に追加で眠ることは全く問題ありません。また脳の老廃物(アミロイドβ)の排出も睡眠中に行われ、良質な睡眠は認知症予防にも不可欠です*2。
④ストレスケア
この分野、とくに心のストレスに関しては当院でお役に立てる分野です。慢性的なストレスは活性酸素を増加させ、体内の炎症を慢性化させます。脳に対しては海馬や前頭葉の萎縮・機能低下を通じて老化を促すといわれております。①~③に加えてストレスケアは極めて重要であり、特にマインドフルネスはテロメア短縮を防ぐことを通じて老化防止に有効とされております*6。余計なストレスを抱えないことが大切で、必要以上に思い悩まないことです。ストレス要因としては①人間関係、②経済的問題、③生活環境(パーソナルスペース、暑さ・寒さ)などがありますが、外部環境は変えられる場合と変えられない場合があります。すぐに変えられるのはご自身の捉え方や脳の状態などの内部環境です。ストレスケアで重要なのは、変えられない部分に執着せずに変えられる部分は積極的に変える努力をすることです。結果としてレジリエンスが上がりストレス耐性がつくかと思います。
*1 Shen X, et al. Nonlinear dynamics of multi-omics profiles during human aging. Nature Aging. 2024.8.14
*2 Tatineny P. Sleep in the elderly. Missouri State Medical Association. Mo Med. 2020;117(6):560-565. PMCID: PMC7723148.
*3 Childs BG, Gluscevic M, Baker DJ, et al. Senescent cells: an emerging target for diseases of ageing. Nat Rev Drug Discov. 2017;16(10):718–735.
*4 Tessier AJ, et al. Optimal dietary patterns for healthy aging. Nature Medicine. 2025.
*5 Lee DH, Rezende LFM, Joh HK, Keum N, Ferrari G, Giovannucci EL. Long-term leisure-time physical activity intensity and all-cause and cause-specific mortality: a prospective cohort of US adults. Circulation. 2022;146(7):523–534.
*6 Epel ES, Daubenmier J, Moskowitz JT, Folkman S, Blackburn E. Can meditation slow rate of cellular aging? Cognitive stress, mindfulness, and telomeres. Ann N Y Acad Sci. 2009;1172:34–53.