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不安・うつ・躁鬱・不眠・不適応に関すること

うつについてあれこれ

様々な背景で脳が疲れた状態を総称してうつ状態といいます。わかりにくいので、いいかえると脳が捻挫または骨折した状態と考えてもいいかと思います。また軽いうつは風邪、重いうつは肺炎レベルとも考えていいです。

うつの背景には、遺伝・生育・環境要因・年齢・身体疾患・ホルモン等が様々にからみあい原因はこれと一概にいいにくいことも多いです。また症状も多彩であるため、診断に困るケースもあります。うつ状態を呈する病気にうつ病というものがあります。

ここでは、本人の未熟・甘えが背景要因として大きい新型うつ病ではなく、真面目、几帳面、頑張り屋、他者優位、自責感が強いといった性格要因を背景にもち無理に無理を重ねて脳が疲弊してうつ病になった、古典的うつ病を対象にします。

このような方を診療していて困ってしまうのは、休養の指示をしても、いろいろな理由をつけて指示に従ってくれないことです。「会社に迷惑をかけてしまう」「自分の代わりはいないからやるしかない」「こんな自分は情けない。自分が悪い。もっとできるはずだ」「仕事を断れない」とかおっしゃいます。

軽度のうつ状態であれば睡眠薬や抗うつ剤で持ちこらえられるケースもありますが、中等度以上では厳しくなります。結果的に動けなくなることが多いです。捻挫や骨折をしていても「頑張って歩きたいから何とかしてくれ、動けないから何とかしてくれ」という無理な相談に似ており、対応に苦慮します。

「自分には能力がない、ダメな人間だ」とおっしゃることも多く、通常は「そんなことはないですよ、こんないい点もこんないい点も・・・さんにはあるではないですか」などと返答しますが、「いやそんなことは絶対にないですよ。周りのみんなはできているのに自分にはできない・・・」と押し問答になってしまいます。

最近は「自分には能力がない、ダメな人間だ」とおっしゃる方には逆説的に「その通りですね、ダメな人間ではありませんが一部の能力が足りず、視野が狭くなっているのではないでしょうか」と話すようにしております。そのくらいきつく言わないと納得してもらえないことも多いからです。「自分には能力がない、ダメな人間だ」本人がいうのでその意見に反論せずにのってしまうのは、楽だからというのもあります笑。

それではどのような能力が不足しているかについて、一言でいうと自分自身をマネジメントする能力です。自分の脳を部下だとしたら部下を管理する能力が足りないだけです。具体的には以下のようなものがあります。

断る能力(頼る能力)

 できないことはできないとNoという能力のことです。または周囲に頼る能力といいかえることができます。会社のことや同僚のことを過剰に忖度して、無理して過大な業務を引き受けてしまう方にとって必要な能力です。「相手に迷惑がかかる」というのが口癖になっている方が多いのですが、「うつが悪化して突然動けなくなり仕事をすべて突然できなくなるほうが迷惑がかかる」とか、「暗い表情で仕事を頑張ると仕事や家でかえって周囲の人に気を使わせる。頑張ることで逆に人に迷惑をかけている」と考えて、勇気をもって断ること、人に頼ることが重要です。会社は予測できる人員不足には対応できますが、急な人員不足には対応しづらいので、会社のためという大義名分をいうのであれば、前もってきちんと休みをとることがより会社のためになります。

休める能力

 人生ずっと走りっぱなしで休めない人に必要な能力です。正確にいうと脳を休める能力です。いつも色々な将来不安で考え込んでしまったり、普段から脳をぐるぐるとフル回転させて酷使しておりぼんやりしたことがない人に多いです。どうやったら休めるかをよくきかれますが、休み方は個別性が強いのでアドバイスしにくい領域です。当院のWebサイトのうつ病の項目にやり方を書いておりますが何ともいえないです。脳が休まれば旅行でも何をしてもいいのですが、「運動がいいですよ」というと無理に運動したりしてしまうので注意が必要です。どうしてもぼんやりできない人は薬(抗不安薬)を使うのをおすすめします。

受け止めない能力(流す能力)

 同僚、友人、上司、家族などに言われたことを真に受けてしまう方に必要な能力です。誰かに「君は会社に絶対に必要な人間だ」とかいわれると真に受けてしまい、それに応えようとしてしまいます。自分はより重要な人材と思ってしまいますが、実際は総理大臣でも代わりはいる位で、本人がいなくても会社も社会も大して影響を受けずに回っていきます。気楽に考えるのがおすすめです。逆に他者から批判的なことをいわれても、それはそれで一個人の意見であると自覚するのが重要です。また総理大臣の話になりますが内閣支持率などせいぜい50%あればいい方で、50%の人に嫌われようが批判されようがそれはそれとして平常運転で政府が倒れたりしないですよね。

この能力は過剰な自意識(プライド)と表裏一体であることもあります。自我が強いから反応するのであって、自我が薄いと反応しようがないのです。犬とか猫に怒ると多少は反応しますが、石に対して怒っても石は全く反応しないです。以前職場の同僚で台風に対して怒っている人がいましたが、台風は全く気にせず近くを通過していきました笑。

また相手の気持ちに同調しやすい人も注意です。周囲の人の感情などをダイレクトに感じやすい人で共感能力が高い人たちです。前述とは逆に自意識、こだわりがやや弱すぎる傾向にあるため、自我が強い相手のペースに支配されやすいのです。これは先程述べた「断る能力」にも影響します。

このように自我・自意識やこだわりなども生きていく中ではある程度は必要なものであり、過剰や過小が問題になりやすいです。中庸・バランスが望ましいと考えます。

身体の話をきく能力

 他者からの視点、つまり自意識は過剰な分、自分の身体への意識は薄い人が多いです。他者配慮する分、逆に自分の身体には冷淡な態度をとります。また身体感覚が鈍感な人もおり、疲弊していることに気づかない人もおります。以前から何度か述べていることですが、痛みや動悸などの症状は何かしらのメッセージとらえることが重要です。自動車でいうとエンジン音がおかしいのに無視して乗って路上で止まってしまうことに似ております。異常なエンジン音がしたら通常は早めにディーラーに相談して修理に出しますよね。また自分の身体=大自然と考えると、無理して身体を酷使することは、温暖化により頻発している異常気象を無視して自然破壊をしている人類の縮図ともいえます。逆に症状への過剰な囚われは、それはそれで心気症という強迫症状であり注意が必要です。自分自身への意識、思いやりと他者への思いやりを同等と考えバランスをとることが重要です。

待てる能力

うつになる方でよくあるケースが回復を焦ることです。もともとうつという状態になれていないために早く脱しようともがくわけです。もがけばもがくほど、脳には負担になって回復が遅れます。うつになったらなったで開き直ったり、病気を受け入れれば回復は早いのですが、慌ててしまい逆に遠まわりする印象です。その背景には経済的な問題が多いです。経済的問題の解決はなかなか難しいのですが、最近はYouubeなどでお金をかけなくても気楽に生きている人々が動画を上げたりしているので参考にするものいいかもしれません。

また経済的問題、つまりお金の問題は他者との比較という心理が背景にあります。今は貧しくて死ぬしかないといっても、戦後すぐの時代や江戸時代の生活と比較したら非常に恵まれすぎとも思われる生活レベルです。いくら身分の高い貴族でも平安時代や奈良時代であれば冬に暖房がなく食べ物も粗末なものであったこと、傷1つで敗血症になったりこどもを出産してすぐに死亡したりしていた訳で、それに比較すると現在の貧困の方が生活レベルははるかに高いと客観的に判断できます。結局は、現代という時代で他者と比較して自分がどこにいるかが価値基準になっていること、お金の問題というよりは他者との比較という幻想にとらわれているだけであると気付けることがポイントです。

以上うつになりやすい人、再発しやすい人に足りない能力を書いて参りましたが、無理をしないこと、力を抜いていい意味で諦めることも人によっては重要です。すぐになんとかしようとムキにならないことです。息子の塾の先生の言葉ですが、「才能や努力ではなくて工夫して物事にあたる」ことが大事というものがあり、非常に参考になる言葉でした。

自分が無理をして仕事で成果を出すことは喜ばしいと考えがちですが、次世代への影響を考えるとプラスマイナスあります。次の世代も同様のパフォーマンスや無理をすることがデフォルトになってしまい、もともとキャパがない人にとって悲劇を生んでしまいます。逆に本人が適当に仕事をセーブして成果もそこそこであると、他の人もそこまで無理を強要されずパフォーマンスも安定して会社全体では業績が安定することもあります。

また別の視点では、できない自分がいることで相手を成長させる機会を与えると考えることも可能です。駄目な自分がいることで相手に諸行無常の思想や慈悲の心が生まれることもあります。

さらにうつになっても、偏った自分自身の生き方・考え方のバランスをとるために起こってくれるありがたい病気と考えてもいいかもしれません。

会社の産業医との関わり方について

働いている皆様方の職場の職員数が50人以上の場合、「産業医」という医師免許をもった先生が常勤または非常勤で会社に勤務しております。「産業医」についてあまり知識のない方も多いので、今回は「産業医」の利用の仕方や注意点について述べたいと思います。産業医の役割は多岐にわたるのですが、ここではメンタルクリニックと関係する業務について焦点をあてていきます。

職場での人間関係、長時間労働、業務内容などのトラブルなどを契機にうつ状態になり、メンタルクリニックに通院されている方が多いと思います。当院でも、労働環境への不適応から精神のバランスを崩して受診される方が初診の半数弱を占めます。病名としては適応障害が一番多いのですが、治療として一番効果的なのは一時的に休職をすることです。ただ安易に休職することが難しい職場も多いです。真面目な性格から休職することで逆に気をつかって心身のバランスを崩すケースもあります。休職が困難な場合には、薬物治療をしつつ業務量の低減や異動など今後の働き方を職場の人事課や上司と相談していく流れになります。

適応障害で休職すると、うつに関連する症状は速やかに改善することが多いです(早いと数日~1週間)。精神症状はこのように比較的簡単に改善するのですが、問題は職場復帰後の環境調整です。同様の業務内容・人間関係では再発必至であるため何らかの介入が必要になります。

この復職の際に産業医を利用することが多いです。基本的に会社側から産業医面談を受けるように指示されます。産業医の役割としては、主治医からの診断書を基に、皆様と面談し復職後の勤務時間、場所、内容などを人事課や上司などの関係者と相談して調整することです。具体的には職場の関係者に向けて意見書を作成することになります。会社には法律上定められた安全配慮義務という「社員の心身の健康に配慮した職場環境の改善」をする義務があるため、意見書の内容を無下にはできないのです。もちろん最終的に配置転換などの決定は会社が行うことになるので、意見書の内容に従わないこともあります。

医師の中で「産業医」は比較的珍しい存在です。医大を卒業後または研修後にすぐに産業医になる医師はほとんどおりません(北九州の産業医大という産業医育成を目的に設立された医科大学を卒業された方はすぐに産業医になる方もおられます)。ほとんどの産業医は内科や外科などの医師が、専門とは別に産業医講習を受けて認定産業医という資格を取得して産業医になるのです。資格を取得するのは比較的楽なのですが、その後の業務となると話は別です。

昨今はサービス業が産業の主体となっており、メンタルヘルス関係の相談が業務の主体となっている産業医が多いと思われます。内科や外科の専門の医師では、専門外のメンタルヘルス関係の対応は不得手であることも多く、クリニックで診断書を作成してもうまく内容が伝わらないこともあります。本来産業医の業務である復職後の業務内容の調整などを主治医に丸投げしてくるケースもありますが、上記のような理由から致し方ない面もあります。もちろんメンタル系の専門外の医師でも優秀な方も多く、きちんと対応して頂けるケースも多いです。

また本来産業医は会社側と労働者の間に立つ中立的な立場で意見を述べるのですが、会社側から給与をいただいているので、やや会社側に立場が偏りがちです。私自身も産業医業務を非常勤で数社担当しておりますが、会社と労働者で意見が異なる場合はやや会社側にスタンスを置くことが多いです。

日本の会社システムの中では、健康上の問題があった場合の休職・復職の際に産業医と関わることがありますが、産業医にも不得手な分野があることや、中立よりは会社側の立場に立ちがちであることも考慮に入れていただいて面談に望まれるとよいと思います。

不安症について追加

不安症について一部加筆した部分についてまとめます。

神経症という言葉は最近あまり使用されなくなりましたが、不安症(不安障害)とは過剰な不安や恐怖によって苦しみ生活に支障をきたすようになった状態のことです。全般性不安障害、広場恐怖症、社会不安障害(社交不安症)、特異的恐怖症(先端恐怖症、閉鎖恐怖症、嘔吐恐怖症)、パニック障害、強迫性障害など様々な疾患を含みます。この中で強迫性障害はやや重い病気なので不安障害には含めないこともあります。

治療としては、SSRIというkey drugによる薬物療法が基本になりますが、心理カウンセリングや認知行動療法、TFT(思考場療法)、生活習慣や食事内容の見直しなども必要になります。当院では的確な診断はもちろんのことですが、不安・恐怖を克服して社会生活をスムーズに送れるように手助けをしていきたいと考えております。過去のトラウマが発症に関与する場合もあるため、BCT(ボディコネクトセラピー)などのトラウマ処理の手法も併用することがあります。

治療の中で特に重要なのが、不安症のためにひきこもりになったりドロップアウトをしないこと!!です。不安を抱えながらでも外へ向けて行動していく、活躍していく姿勢が非常に重要なことです。不安症のために自宅に引きこもっていると、「今後自分はどうなってしまうのか」といった将来不安が2次的に生まれ、「自分なんかどうせだめだ」といった自己肯定感の低下が続くことになり治療の妨げになるからです。特にパニック障害では「また同じような症状がでたら怖い」といった予期不安で引きこもりになりやすいので注意が必要です。治療では薬物療法・認知行動療法・TFTなどの手法でこころを守りながら病気に立ち向かっていく患者さんをサポートするというが基本であり、患者さん自身の協力も必要不可欠となります。行動で結果をだすことで自己肯定感が高まり、2次的な不安も低減され薬物療法から脱するという流れが治療の大きな流れになります。