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映画「ザ・ライト エクソシストの真実」をみての感想

 「ザ ライト エクソシストの真実」というアンソニーホプキンス主演の映画を、昨日たまたま鑑賞しました。ローマカトリック・バチカンを中心に実際に行われているエクソシスト(悪魔祓い)の話でした。どこまでフィクションでどこまで実話かは不明でしたが、一定の事実を含んでいるものとしてみていくと、非常に面白かったです。以下に感想を含めて述べたいと思います。

 悪魔に憑依された人は様々な幻視・幻聴などの症状が認められ幻覚妄想状態であり、精神医学的には統合失調症・一過性精神病性障害・解離性障害・感応精神病などが鑑別疾患として考えられました。しかし憑依された人が、治療者エクソシストの過去の出来事や未来を言い当てたり、口から釘を出したり、カエルなどの小動物を増やしたりするのは全く説明できません。

 悪魔祓いの最初のクライアントは16歳の妊娠している女性でした。実父にレイプされ妊娠しこころに深いトラウマを負ったようでした。深い心の傷、苦悩が悪魔の憑依を招いたと考えられ、最近よく耳にする「闇落ち」に近いと思いました。「闇落ち」とはネットスラングですが、もともと善人であった人が「劣等感」「疎外感」「物事や世界に対する絶望」などをきっかけに、その人自身のこころの闇が表面化しダークサイドに落ちて悪人になることです。本作品で登場する若い神父さんについても、幼少期に母を亡くしたことをきっかけに本当の神様を信じられなくなりダークサイドに落ちかけたようです。母から受けた愛情深い思い出を糧に、最後の最後に神様を完全に信じ切りダークサイドに落ちずに悪魔に打ち勝つといった設定でした。

 話を戻して、悪魔祓いについてですが、悪魔の正体を明かすことが何よりも重要なようです。名前を明かされると悪魔も退散するようです。当院でも心理カウンセリングを行っておりますが、悪魔の正体を明かす行為はカウンセリングで行われる過程に似ていると感じました。カウンセリングでは様々な苦悩、罪悪感、こころの闇を扱っていきますが、内的な無意識を言語化することが重要ともいわれております。皆様がよくいわれる「もやもやしたもの」「ことばにならない思い」「黒いなにか」に適切な言葉をあたえることで意識化してこころを浄化する流れが悪魔祓いに似ておりました。

 また悪魔の攻撃の方法が面白かったです。基本的にエクソシストの過去の罪悪感や恐怖を刺激することで相手を苦しめようとする戦略のようです。罪悪感はこころのを扱う上で避けて通れない問題です。宗教二世、毒親のこども達でよくテーマになります。特に宗教を運営する側は信者に罪悪感や恐怖を植え付けることを重視しますが、罪悪感や恐怖を利用すると容易に人の心を操りやすいからでしょう。

 憑依した身体を利用してエクソシストに直接暴力をふるって攻撃する場面もありました。このような暴力行為も最近は増えており、日常臨床でも冷や冷やすることあります汗。

 16歳の少女の話に戻りますが、エクソシストにより一度は悪魔祓いをされたようでしたが、結局は悪魔がまだ残っており魂をあの世にもっていかれてしまいました。つまり胎児ともども亡くなってしまいました。その結果、治療者であるエクソシスト自身が深い苦悩に襲われ、闇落ちして悪魔に憑依されてしまうというオチがありました。私自身も、患者さんの自死や病状の悪化、過剰で不適切な要求、世の不条理などで苦悩することも多く、ダークサイドに落ちないように自身の心身のメンテナンスが日々必要と再認識いたしました。生きていく中でこころの成長のためには一定の苦悩は必要ですが、過剰な苦悩を抱くことは闇落ちするリスクがあり注意が必要と感じました。

 2時間弱の映画でしたが、トラウマ、苦悩、言語化、罪悪感、恐怖、他者からの愛情、自己管理などのテーマについて今後どのように向き合うかの参考になったと思います。 また当院の患者さんでも精神医学的に説明できない症状の方や治療抵抗性の方もおられ、エクソシストに頼りたいとも思ってしまいました笑。