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コロナ禍と心理的孤立

2021年9月1日

昨年から長く続くコロナ禍の中で、様々な理由で精神的に不調を来す方が増えております。近年でもリーマンショックなどの経済的不況、東日本大震災などの災害によるうつ病やPTSD、自殺の増加などの問題もありましたが、今回のコロナ禍での特徴は、経済的問題もさることながら人間関係の関係性の変化もしくは物理的・心理的孤立による影響が長期間に及んでいるとというものがあります。

コロナ禍での昨年2020年度の自殺率について、通常であれば働き盛りの男性が増加することが多いのですが、女性やこども・若者を中心に自殺率が上昇したことが特徴的といわれております。特に第2波では女性の自殺率の上昇は37%にも及び、その中でも同居人のいる主婦の自殺が倍増しているといわれております。背景分析は様々と思いますが、いつもなら外で働いている夫や学校へ行っているこどもが家にいることで家族間の距離が適切にとれず潜在化していた家族内の葛藤が顕在化したことや、友人と外でランチやショッピングなどでストレス発散していたものができなくなったことなどがあげられます。もちろんそもそも女性の方が非正規雇用の方が多いので経済的な破綻も来しやすかったり、不安や恐怖に関係する扁桃体という脳の部位は活性化しやすく、連日のテレビ・マスコミの報道の影響で過度な不安を感じそれが影響しているのかもしれません。今回はその中でも人間どおしのつながりに着目します。

東日本大震災では絆というか人と人のつながりの重要性などがマスコミを中心に報道されましたが、今回のコロナ禍ではそのつながり自体がゆさぶられている現状が認められます。首都圏の大学生を中心とした若者でオンライン学習を半ば強制された方、1週間ずっと在宅ワークを1人でやっている方、サークル活動などの人付き合いができなくなった高齢者など様々な方に多大な影響を及ぼしたと思われます。逆に同居家族などでは共有する時間が増えて絆が増したといったこともありましたが、家族間で適切な距離がとれずに逆に関係性が悪化して大変であった例も多いと思われます。

孤立というものついて考えると面白いことがわかります。実際の物理的孤立と心理的孤立の違いです。たとえ他者と物理的・社会的な距離が近くても、自分のことを理解してくれない、自分の居場所がない、拠り所がない場合は心理的に孤立している状態と考えられます。これも東日本大震災の時の例ですが、同居する家族がいる方ほど自殺される方が多かったというデータがあります。今回のコロナ禍で主婦の自殺が増えたというのも、たとえ家族がいて物理的には孤立してなくとも心理的な孤立状態におかれていたことが影響した可能性があります。特に中学生などの思春期の人では学校での人間関係に重きがおかれ、そこでいじめられたり仲間はずれにされた場合に江戸時代の村八分に近い心理的状況が想定されます。江戸時代の村八分とは、あらゆる村(当時は世界全体)の行事などから追い払われ、社会的な死に匹敵する出来事でした。中学生などでは学校=江戸時代の村ととらえられる位のレベルの方もおり、そこでの孤立状態は本人にとって非常に耐えがたいものになることは想像にかたくありません。

孤立をなくすために人と人とのつながりを大事にしようにも、社会全体でつながりが分断されているのが現状です。一方では物理的に距離が近すぎて心理的な孤立が深まっている現状があります。心理的孤立を解消するのは非常に難しい面がありますが、患者さんがよく利用している対処方法として人間以外のものと繋がりをもつことなどがあります。例えば、動物・植物・神仏・自然などなどとの繋がりをもつことがいいかもしれません。猫を飼ったり、植物を育てたり、神社仏閣に通ったりしている方が多いですね。さらに歴史物や小説を読んで、昔の人や架空の世界と繋がりをもつこともいいかもしれません。

また孤立のいい点に目を向けることも重要です。それはは他者視点が少ない生活ができることです。多くの人は自分の人生でなく他者の人生を生きている場合が多いですね。親の期待だったり、周囲からの評価であったり、何らかの役割を演じてそれを本当の自分と思って生活しておりますが、自分1人だとその仮面自体があやふやになり、仮面をとった自分を意識しやすくなります。孤立は本来の自分に向き合うためには必要な過程かもしれません

あと「人」に対する期待値を下げることも必要かもしれません。心理療法などは人対人で行われるもので、「人」というものの影響力は絶大であると実感できます。オープンダイアローグなども多職種の専門家とクライアントの対話を中心とした治療方法で急性の精神病といった対応困難と思われる事例でも一定の治療効果が得られるとされております。このように強い癒しのパワーのある「人」という存在なのでつい依存しがちになりますが、パワーがあるのでそれだけ副反応が大きいのも事実です。家族からの暴言、上司からのパワハラ、ちょっとした一言に反応して精神症状を急激に悪化させる方は多いです。逆に友人や上司に褒められたりするとそれだけで精神症状がぱっと改善することもあります。多くの人は「人」の意見や視点に翻弄されるわけです。特に家族に対しては期待値が過度になりがちなので注意が必要です。家族であっても他者であると頭の片隅の置いておくことも大事ですね。

最後に1つ忘れてはいけないのは、「人」は変わるという性質があります。つまり無常ということです。不安定な存在で期待通りに対応してくれないことがむしろ多いです。友達・家族も然り、先生も然りです。例えば学生時代に大の友人であったとしても、「人」には常に社会的な環境の影響や肉体的な変化(老化)がおきており、ひととなりも含めて一定ではないということです。考え方や趣味・指向について常に変化するものと考える方が自然です。変化するものなので明日の天気と同じで当てにはならず、お互いの関係性が変化していくのも致し方ないことです。自分という「人」自体もどんどん変わっていく中で、他人はなおさらかなと思います。変わりにくく安定しているものとしては薬の効果やお金の価値などがありますが、それに依存する人もいますね。

以上まとめると

・人間は心理的孤立状態におかれると、精神的な不調をきたす。

・心理的孤立状態への対応としては以下のものがある。

①「人」には強い癒しのパワーはあるが、無常で不安定であるため当てにならない。「人」への期待値を下げることが重要。特に家族への期待は過剰になりやすいので注意。

②孤立のいい点にも目を向けること。

③動物・植物・神仏・自然などなどとの繋がりを意識して生きている人もいる。読書などで昔の人、架空の世界との繋がりを意識することもいいかもしれない。

④お金の価値や薬の効果などはそれほど変わらないものなのでそれに依存する人もいる。

今回のコロナ禍では強制的に物理的・心理的孤立状態におかれる中で、他者視点を意識しないで1人1人が自分自身をみつめて個として安定して生きる能力が問われているとも思います。

当院通院中の方で、統合失調症、自閉スペクトラム症、社会不安障害、広場恐怖症、醜形恐怖などの方には比較的影響が少なかったと思われます。もともと人や人混みが苦手であったり、自閉的で孤立した生活やマスクを好む方などは、コロナ禍でも生きづらさを感じにくくむしろ安定した生活を送っており興味深い限りです。多くの人が生きづらさを感じる中で、逆に生きやすくなる方もいる人間社会の多様性と懐の深さを再認識させられる毎日です。