お知らせ

心ではなく行動を変えよう!

以下、心理士中村の記事です。認知行動療法の根幹をなす内容となっております。認知行動療法、特に行動療法に関心のある方や、実際治療を受けられている方は是非参照下さい。

1.ぐるぐる・ぐうたらは気持ちの問題ではありません

 ぼーっとしてしまう、スマホが手放せない、お風呂に入るのが億劫で動けない……。ストレスを感じたとき、私たちは心身を守ろうとして「休む」「じっとする」という行動を取りがちです。しかし、皮肉なことに、ストレス反応として現れる「活動の停止(スマホ依存や引きこもり)」は、時として逆効果を招きます。安静にしているつもりでも、脳内では「デフォルト・モード・ネットワーク」が働き続け、絶え間なくネガティブな思考を生成し続けるからです。これを放置すると、過去の後悔や将来への不安といった「ぐるぐる思考」に足を引っ張られ、感情も行動もますます停滞するという負のループに陥ってしまいます。こうした停滞が続くと、学校や仕事への通学・通勤、対人関係といった日常の営みが困難になり、問題が深刻化してしまうケースも少なくありません。

 しかしこの問題はあなたの意志・性格の問題ではありません。人間は本来、ぐるぐる・ぐうたらするのが普通だからです。「生きる意味がわからない」「自分は傷つきやすい」と悩みの次元を転換してますます混乱しておられる方もおられますが、多くの場合関係ないです。上記の問題を解決するのに肝心なのは、脳の「初期設定」(環境調整)です。

2.脳の「初期設定」とは

 脳の初期設定とは、スマホの初期設定と同じイメージです。

あなたは、スマホの言語設定はどうしていますか?母語である日本語にしたり、英語学習のために英語にする方もいるかもしれません。フォントサイズは自分が読みやすいサイズにしているでしょう。アラビア語の学習経験がないのにアラビア語にしたり、フォントサイズを極小にして「私のスマホ使いにくいよ〜〜」と泣いている方はいないと思います。また、気合いと根性でアラビア語を解読しようとしたり、小さな文字を読むのにエネルギーを費やす方もいないでしょう。友達がそのことで悩んでいたら「設定変えたほうが良いよ」と教えてあげるはずです。

 生活リズムを整えることもこれと同じです。一見、強い意志や面倒がらない気持ちが必要そうに見えますが、それは間違いです。脳の初期設定をうまく活用することが肝心で、最初の一歩をうまく軌道に乗せられたら私たちは様々な行動を習慣化することができます。風呂に入らない方が楽、だらだらショート動画を見ている方が楽だと思いますが、本質的に向き合うべきことに向き合えていない状態なので、脳のストレスは溜まり続けます。真に楽に生きるためには、スマホの初期設定の調整をするように、脳の初期設定(環境調整)が重要です。以下にその方法を詳しく説明します。

3.やる気エンジンの始動スイッチ=側坐核

人間がぐるぐる・ぐうたらして動き出せない理由は、非常にシンプルで、「まだ始めていないから、ますます動けなくなっている」というものです。これは脳の「側坐核」のメカニズムをうまく使えていないというだけです。

「側坐核」の正体

私たちの脳内には、やる気や意欲を司る「側坐核(そくざかく)」という部位が存在します。ここは、いわば「やる気エンジンの始動スイッチ」です。近年の研究で明らかになっているのは、この側坐核は「ただ待っているだけでは決して働かない」というシビアな性質をもつことです。側坐核を刺激し、やる気を引き出すためのガソリンは、思考ではなく「実際の行動」ということです。

「作業興奮」があなたを没頭させる

一度作業を始めると、いつの間にか集中していたという経験はありませんか? これは心理学で「作業興奮」と呼ばれる現象です。

このように、脳は「一度始めたことを継続し、のめり込む」という強力な性質を持っています。やる気は「出す」ものではなく、動くことで「後からついてくる」ものなのです。

4.動き出すための「最初の一歩」のコツ

コツ1:スモールステップ

 最初の一歩は、「小さな段差」「小さな不安」が大事です。私たちはつい、遠くにあるゴール(階段の最上段)を見上げて「あんなに高いところまで行けるだろうか」と不安になります。しかし、実際に登る時に必要なのは、目の前にある「わずか10cmの段差」を越える力だけです。小刻みに設定された目標は、あなたに「これならできそう」という安心感を与えます。階段を一気に跳び上がる必要はありません。一段一段、着実に足を乗せていくイメージを大切にしてください。

コツ2:行動を儀式化する(コーピングレパートリー)

 ストレスへの「意図的な」対処のことを「コーピング」といいます。「意図的にする」ことが一番のポイントです。例えばストレスが溜まって気づいたら過食したりSNSを見ていたりというのはコーピングではなく「行動的なストレス反応」です。一方で、「今自分には〇〇というストレスがあって、それに対して自分の中に〇〇というストレス反応が生じている。こういうときは冷凍庫のお気に入りのアイスを食べて気を晴らそうか」と思って意図的に好きなアイスを食べるのはコーピングです。

 どのコーピングがよくてどのコーピングが悪いかということよりも幅広く多様なコーピングを使えることが健康につながることがわかっています。自分や人を傷つけないことであれば人から褒められることでなくてもいいので、意図的に使えるコーピングをたくさん用意しておきましょう。まずは儀式のように、あらかじめ決めておいたコーピングを淡々と実行してみてください。体が動き出し、五感が刺激されることで、後から少しずつ気持ちがついてくるのを待つのが得策です。ストレスを感じたら次々と儀式的にやっていくというのを日常的に繰り返してください。

 コーピングを1、2個やったからといって、嫌な気分が魔法のように消えてなくなるわけではありません。「100の苦しみが、95くらいになった(ちょっとマシになった)」という感覚を積み重ねることが、何よりも大切です。

「根本的な解決にならない」と立ち止まり、頭の中でストレスをぐるぐると反すうし続けるよりも、何か一つ行動を起こす方がはるかに健康的です。その「小さな行動」が、あなたのやる気エンジン(側坐核)を始動させるきっかけにもなります。コスパ、タイパを重視しがちですが、効率化して余った時間で私たちは何をしているのでしょうか・・・。ぎょうざを包むとき、カニを食べるとき、私たちが余計なことを考えないでいられるのは、目的をもって手を動かし、体を動かしているときであることが多いです。

<コーピングレパートリーの例>

わざと大声で笑ってみる

うがいをしながらカエルの歌をうたう

冷たい水で手を洗う

浮かぶ考えをシートに書く

習った認知再構成法を行う

習った問題解決技法を行う

アロマの香りをかぐ

チョコレートを味わう

新聞紙などをビリビリに破いて舞わせる

机を拭く

椅子を拭く

横浜市、神奈川県、日本、ヨーロッパなどの地図を細かく描く

トイレ掃除をする

洗面台の掃除をする

鼻歌をうたう

野菜を切り刻む

ストレッチやラジオ体操をする

目に見えている景色の模写をする

ネットで世界遺産やきれいな景色を検索する

耳掃除をする

コンビニにふらっと出かける

楽しかった写真を見て懐かしむ

殻や皮つきのものをゆっくりきれいに食べる

当院のホームページ記事を見まくる

100円ショップのミニブロックをする

クッションのほころびを縫う

靴磨き、スニーカーを洗う

近くにある本を音読する

コーヒーか紅茶をいれる

気分に合う短歌、俳句を検索する

自分でも短歌や俳句を詠む

部屋の人形や花に話しかける

本棚の整理をする

ゴリラのふりをする

カラスのふりをする

変な顔で自撮りする

チラシの裏に落書きする

好きなラジオを聞く

ぬりえをする

写経する

何かをこねる(ねんど、パン生地)

みかんの皮に顔を描く

生活リズム表を書く

砂糖、醤油、味噌、塩などの調味料ができる過程の動画を見る

旬の食べ物を調べる

季語を書き出す

今日は何の日か調べる

ヨガをする

呼吸法をする

グラウンディングをする

風船バレーをする

服をたたむ

薬入れを新調する

姿勢を正す

近所の人にあいさつする

歯磨きする

植物に水をやる

ホモ・サピエンスの歴史について調べる

宇宙の大きさについて調べる

歴史上の人物の逸話を調べる

友達に連絡する

パソコンでタイピングゲームをする

数独(ナンプレ)をする

お風呂に入って潜水し、水の音を聞く

ちょっと高いアイスを食べる

冷たい水で顔を洗う

いらないものを3つ捨てる

鞄の中を整理する

大切な人と話す

大切な人が喜ぶことを考える

好きな食べ物ベスト10を作る

好きな飲み物ベスト10を作る

散歩する

好きな曲ベスト10を作る

メイク10をする(暗算)

編み物をする

本屋に行く

本屋で気になる本を3冊探す

楽器を弾く

読書する

その場でダッシュまたはスキップ

かわいいものを見る

ゆっくりまばたきする

木の幹を触りに公園に行く

頭の上に物を乗せて家の中を歩いてみる

小躍りする

頭や体にブランケットやタオルを巻く

好きな名言やことわざを3つ見つける

映画を観に行く

ハンドマッサージをする

カフェに行く

TFTをする

コラージュを作る

玄関を掃除する

飢饉について調べる

体のどこかを温める

食器を洗う

冷たい水をちびちび飲む

手浴をする

英単語を1個覚える

コツ3:書いて記録する

 スウェーデンはかつて、学校教育のIT化において世界をリードする存在でした。しかし近年、その方針を劇的に転換し、デジタルツールから「紙の教科書」や「手書き」を重視する学習スタイルへの回帰を推奨しています。紙に手書きすることで、私たちは「紙のどのあたりに書いたか」という空間的情報や「書いているときの音、筆圧」などの身体的情報を得ることができ、さらに記録の「遅さ」によって、より深く分析したり考察することができるそうです。

 当院のカウンセリングにおいて、生活リズムの記録や認知行動療法のワークで「手書き」を推奨しているのは、それが最も効果的な「自己客観化(メタ認知)」の手段であると考えているからです。手書きに伴う身体的・空間的なフィードバックは、デジタル入力では得られない強固なエピソード記憶を形成します。つまり自身の思考パターンや行動の癖をより鮮明にしやすく、結果として最も確実な回復への近道となると考えております。