お知らせ
回避行動のデメリットと克服方法について(心理士鈴木の記事)
2026年1月19日
心理士鈴木により回避行動に関する記事についても、前回の院長の記事に引き続きアップさせて頂きます。
「回避行動」は、短期的には心を楽にしてくれる便利な手段ですが、長期的には私たちの可能性や生活の質を損なう原因にもなります。
この記事では、回避行動の具体例や、なぜ私たちは逃げることを選んでしまうのかというメカニズム、そしてそれを克服するための心構えと具体的なトレーニング方法について解説します。
<私たちの身近にある「回避」の形>
「回避」と聞くと、その場から逃げ出す、関係を断つといった極端な行動を想像しがちです。しかし実際には、回避はもっと日常的で、気づきにくい形で私たちの生活に入り込んでいます。
◯日常生活や学校・職場での例
- 不登校・環境からの逃避
集団生活では、合う人もいれば合わない人もいるのが自然です。本来は、適切な距離感を撮りながら折り合いをつけていくことが現実的な対処になります。しかし、回避傾向が強まると、「嫌なものは一切我慢しない」「不快を感じる環境そのものを排除する」という方向に思考が傾きやすくなります。その結果、学校や職場そのものから離れるという選択が、唯一の解決策のように感じられてしまうことがあります。 - 言いたいことが言えない
「相手に悪いから」「空気を壊したくないから」という理由で、自分の意見や不満を飲み込んでしまうことは、一見すると優しさや配慮のように見えます。しかしその裏側には、「嫌われるかもしれない」「関係が悪くなるかもしれない」という不安を引き受けることから逃げたいという動機が隠れている場合があります。その結果、その場では衝突を避けられますが、後になってから「本当はあのときつらかった」「分かってもらえなかった」と、後出しで不満が噴き出しやすくなります。 - 評価や失敗からの逃避
受験や就職活動、テスト勉強を直前で投げ出してしまう行動も、回避の典型例です。これは単なる怠けではなく、自分の能力を評価されることや、失敗して傷つく可能性を避けたいという心理が強く働いています。「やらなかったからダメだった」と思えれば、「やったけどダメだった自分」と向き合わずに済むため、心を守る行動として選ばれやすくなるのです。
◯「頑張りすぎ」という隠れた回避
意外に思われるかもしれませんが、「真面目すぎる」「気を使いすぎる」「限界まで頑張る」ことも、回避の一種である場合があります。周囲から責められたくない、嫌われたくないという不安が強すぎるあまり、過剰な努力や配慮によって、あらかじめトラブルを防ごうとする状態です。万が一問題が起きても、「これだけやったのだから自分の責任ではない」と思える状況を、無意識のうちに作り出しているとも言えます。このような回避は一見「良い行動」に見えるため、本人も周囲も問題に気づきにくいという特徴があります。
<なぜ回避はやめられないのか:「負の強化」の罠>

回避行動が習慣化する背景には、心理学でいう「負の強化」という仕組みがあります。これは、回避行動を非常にやめにくくする強力な学習メカニズムです。
◯「嫌なことが消える」という報酬
通常、人は「褒められる(正の強化)」ことで行動を学習しますが、負の強化は「嫌な状態がなくなる」ことでその行動を学習します。 例えば、不安な課題を先延ばしにすると、その瞬間に不安がスーッと消え、ホッとします。脳はこの「安心感」を強力な報酬として受け取ります。すると、次に似た状況になったときも、脳は「前回逃げたら楽になったから、今回も逃げよう」と自動的に回避を選択するようになります。
◯積極的な行動に見える「回避」
「良い人を演じる」「過剰に頑張る」ことも同様です。気を使うことで「嫌われなかった」という安堵感が得られると、それが負の強化となり、やめることが怖くなります。この場合、目的は成果ではなく「不安の払拭」にあるため、安心を求めてさらに過度な努力を重ねるという悪循環に陥り、心身を消耗させてしまいます。
<人が回避を優先してしまう理由>
回避行動は、生物の意思決定として非常に「効率が良い」ため、選ばれやすい性質を持っています。
- 即効性がある
努力して成功を待つよりも、逃げる方が一瞬で不安を消せます。ただ本質的には、問題を先延ばしにしているだけです。そのため、必ずその後の人生において同様の課題が立ちはだかり、また回避行動をとって一時的に解決し、また数年後同様の課題で出てきて不安になり・・・というループにつながります。 - 不確実性を消せる
人は「どうなるかわからない状態」を強いストレスとして感じます。回避すれば、暫定的な意思決定をしたことになるので、自分の中で結論をコントロールできているような気分になり、先を思い悩む必要がなくなります。 - コストが低い
新しい挑戦には多大なエネルギーが必要ですが、回避は判断が単純で、失敗した後の対応を考える手間も省けます。仮に、回避行動や先延ばしをすることで、より嫌なこと(先生や両親等の周囲の人に怒られる、単位を落として留年する等)が起きることが確定しているのであればまだ回避・先延ばしする方がコストが高くなるでしょう。しかし現在は、会社側から社員を解雇することが難しいことや、出席回数が足らず留年しそうな学生であっても補講等の救済措置が取られること等から、回避行動を取ることのリスクが一見分かりづらくなっていると言えます。 - 責任が曖昧になる
挑戦して失敗すれば責任を問われますが、何もしなかったこと(回避)については、結果が目に見えにくいため、周囲からの責任も曖昧になりやすいです。
<回避を克服するための心構え>
回避のループから抜け出すためには、根本的なマインドセットの転換が必要です。
- 「積極的に失敗する」という姿勢
失敗を避けるのではなく、むしろ積極的に失敗体験を積み重ねることが重要です。失敗しても「意外と大丈夫だった」「死ぬわけではない」という経験が、不安への耐性を作ります。 - 自分を特別視しない
「自分は失敗してはいけない」,「恥をかいてはいけない」という自意識を捨てましょう。徳島県の阿波踊りで有名な「踊る阿保に見る阿保、同じ阿保なら踊らにゃ損損」という言葉のように、格好をつけて外側から傍観しているよりも、泥臭く当事者として参加する方が人生の充実に繋がります。 - 「冷笑」という安全地帯を捨てる
斜に構えて物事を冷笑するのは、自分が傷つかないための臆病な防衛策に過ぎません。冷笑で優位に立ったつもりにならず、現実の舞台に降りる勇気が、回避を克服する第一歩です。
<今日からできる具体的な行動トレーニング>
回避行動を減らすためには、頭で理解するだけでなく、実際に「不快な状況」に少しずつ身を置き、それでも致命的なことは起きないと体験的に学ぶことが重要です。このような練習は、心理学では「エクスポージャー」と呼ばれますが、ここでは「回避せずに、その場に少しだけとどまる練習」と考えてください。ポイントは、一気に苦手を克服しようとしないことです。不安を完全に消そうとするのではなく、「不安があっても回避しなくていい」という新しい体験を積み重ねていきます。
◯あえて「良い人」をやめてみる
例えばレジで少しもたついてみるなど、あえて相手に「迷惑をかけるかもしれない」状況を小さく作ってみてください。多くの人は、「嫌われないように振る舞う」ことで不安を下げています。しかしこれは、「気を使えばその分安心できる」とい学習を強めてしまいます。そこであえて、完璧に気を使わない状態のまま数十秒その場にとどまることで、「回避しなくても不安は時間とともに下がること」、「他人の反応は思ったほどコントロールできないこと」を体験的に学ぶことができます。他人の目を完璧にコントロールすることは不可能です。「嫌われるかもしれない」という不確実性を、回避せずに引き受けることが練習の目的です。
◯不完全な結果を受け入れる
勉強不足だとしても、逃げずにテストを受け、悪い点数を取ってみてください。多くの場合、回避の背景には「失敗したら取り返しがつかない」、「ダメな自分だと証明されてしまう」という過大な予測があります。実際に不完全な結果を経験し、「確かにショックはあるが、それでも生活は続く」という現実を引き受けることが、回避の学習を書き換えます。このとき、言い訳をせず、結果を過度に分析しすぎないことが大切です。自分の行動が招いた結果をありのままに受け入れることが、真の自立へと繋がります。
◯現実の自分を引き受ける
「友達がいないと思われたくない」、「1人でいるのは恥ずかしい」という不安があるなら、あえて学校や職場で一人で過ごしてみましょう。あえて1人で過ごし、事実としての「今の自分」を隠さず、そのまま引き受けることで、「不安があるが耐えられること」、「周囲は思ったほど自分を気にしていないこと」を学ぶことができ、虚栄心による不安から解放されます。
<今日からできる具体的な行動トレーニング>
これらのトレーニングに共通するコツは、回避を完全に止めようとしないことです。
- 不安を感じたら、すぐ逃げるのではなく30秒だけ待つ
- 課題の全部を終わらせようとするのではなく、5分だけやってみる
このように、回避と安全が即座に繋がらない時間を少し作るだけでも、負の強化は弱まります。回避行動は、短期的にはあなたを守ってくれますが、長期的にはあなたを不自由な檻に閉じ込めてしまいます。少しずつ「小さな失敗」を積み重ねていき、不快感と共存する練習を始めていきましょう。