お知らせ

高校生に見られる「0か100思考」と完璧主義

以下 心理士鈴木の記事となります。参考にして下さい。

<極端な「0か100思考」と完璧主義の例>
 高校生の中には、「勉強したくないけど良い点は取りたい」という気持ちから全く勉強せずに過ごし、その結果テスト前に不安や抑うつ感だけが募ってしまうケースがあります。また、「課題は完璧に仕上げないとやる意味がない」と考えるあまり手を付けられず、結局締め切りに間に合わなくなることもあります。

 これらは典型的な0か100の極端な思考(白黒思考)による行動パターンです。つまり「完璧にできないなら最初からやらない」という極端な捉え方であり、完璧主義的な考え方とも深く関係しています。このような傾向のある高校生は、問題が生じても試行錯誤で解決策を探ることが苦手で、結局何も対処できないまま不安だけが残ってしまうことが少なくありません。

 こうした白黒思考の背景には、「できない自分」を周囲にさらしたくないという強い恐れも見られます。本当はやり遂げたい課題であっても、失敗したり中途半端な結果になるくらいなら最初からやらない方がマシだと感じてしまいがちです。辛いことは自分で対処せず誰か他の人に任せたい、少なくとも自分の失敗として向き合いたくない、という未熟さからくる心理も指摘できます。

<なぜ極端な思考になってしまうのか>

 高校生にこのような白黒思考や完璧主義が生まれる背景には、いくつかの心理的要因が考えられます。第一に挙げられるのは強い失敗恐怖と自己評価の偏りです。完璧主義の心理モデルによれば、根底には失敗への強い恐れや過剰な成功への執着、そして「自分の価値=成果次第」という考えが存在します(Chęć et al., 2025)。

 そのため「絶対に間違えてはいけない」「100点でなければ無価値だ」という硬直した基準を自分に課しがちです。このような基準のもとでは、少しでも満たせない場合に全てがダメに思えてしまう認知の歪み(=考え方の偏り)が生じます。

 また、失敗経験の捉え方にも偏りが見られます。完璧主義的な学生は、一度の失敗ですべてを否定されたように感じ、「やはり自分はダメだ」と極端に一般化して考えてしまう傾向があります(Yosopov et al., 2024)。このような過度の失敗への敏感さゆえに、失敗そのものが耐え難いものとなり、最初から挑戦しない方が安全だと無意識に選択してしまうのです。研究でも、完璧主義傾向の強い人ほど失敗への恐怖心が高く、些細な失敗を自己の価値全体の否定と捉えやすいことが示されています(Yosopov et al., 2024)。

 さらに、発達的な特性も関与している場合があります。例えば、生まれつき注意力のコントロールや計画力・柔軟な発想が苦手といった発達特性を持つ場合、環境の変化や課題の難しさに対応する試行錯誤のスキルが十分に育っていないことがあります。そうした特性のある高校生は、過去に繰り返し失敗体験を重ねるうちに「どうせ自分にはできない」と学習してしまい、チャレンジする意欲をさらに失ってしまうことがあります。

<「失敗が怖い」心理と回避による悪循環>

 失敗への強い恐怖心や完璧主義があると、回避行動によって当面の不安をやり過ごそうとすることが多くなります。例えば「勉強しなければテストで失敗するかも」という不安に対し、「それなら最初から勉強しなければ本気でやったのに失敗したと自分も他人も感じずに済む」という心理が働くことがあります。しかしこのような回避は一時的に安心を与えるものの、問題そのものは解決しないため不安は持続し、締め切りや試験日が近づくにつれてかえってストレスが増大します。実際、回避的な対処法は短期的には気持ちを紛らわせても、長期的には不安や抑うつリスクを高める不適応的な対処とされています。10代の青年を対象にした研究では、回避型のコーピング(問題から目を逸らす対処法)を多く使うほど不安や抑うつのレベルが高いことが報告されています(Zhang et al., 2022)。つまり「嫌なことから逃げる」戦略は、後になって余計に大きな不安や落ち込みとなって戻ってくる悪循環を生むのです。
 さらに、課題に手を付けず避け続けることで成功体験の機会も失われ、自己効力感(「自分はやればできる」という感覚)はますます低下してしまいます。その結果、ますます次の挑戦が怖くなり、再び回避する…という負のループに陥りやすくなります。不安に耐えかねて最終的に親や友人など他の誰かに助けを求める場合もありますが、これが習慣化すると「自分ではできないから誰かに任せればいい」という依存的な姿勢が固定化しかねません。失敗を恐れるあまりの回避行動は、本人の精神的な苦痛を長引かせる悪循環となってしまうのです。

<望ましい変化:柔軟な思考と試行錯誤の習得>

 極端な0か100思考や完璧主義の傾向を和らげるためには、認知の柔軟性と試行錯誤する姿勢を身につけることが望まれます。まず大切なのは、「完璧でなくても意味がある」「少しでも前進すれば成功に近づいている」というグレーゾーンを認める考え方です。物事を100点か0点かで判断するのではなく、たとえ60点でも次に繋がる大事な一歩だと捉えることができれば、不安や恐怖心は和らぎ行動に移しやすくなります。実際、問題から逃げずに積極的に対処する対処法(アクティブ・コーピング)は、精神的な健康を守る上で有効であるとされています(Zhang et al., 2022)。ストレスに直面したとき、自分で問題解決に取り組んだり、計画を立てて行動したりする姿勢は、不安や抑うつなどの内面的な苦痛を和らげる要素になることが明らかになっています。
 具体的には、小さな課題からで良いので失敗しても構わないからやってみるという経験を積むことが有効です。最初は不安でも、実際に手を動かしてみると少しずつできることが増え、自信が芽生えてきます。その過程で仮にミスや失敗があっても、「それから何を学べたか」「次はどう工夫できるか」を振り返ることで、単なる失敗を成長の糧に変えることができます。こうした試行錯誤の積み重ねが、硬直した完璧主義の考え方を和らげ、「やればできるかもしれない」という自己効力感を高めてくれます。
 また、認知行動療法に基づくアプローチは、完璧主義的な思考パターンを修正し不安に対処するのに効果的です。「失敗への耐性をつける練習」や「非現実的な基準を手放す方法」を学ぶことで、徐々に「失敗したとしても仕方がない」と自分にとって適切な基準値を考えられるになっていきます。
 最終的に望ましいのは、本人が極端な思考にとらわれず、自分で問題に向き合えるようになることです。多少うまくいかないことがあっても柔軟に考え、必要なら周囲に適切に助けを求めつつ、自分の力で課題に取り組めような、精神的な自立が育つことが目標です。完璧ではなくとも一歩ずつ前進する姿勢を身につけることで、不安や抑うつも和らぎ、学校生活や将来の様々な困難にも対応できるレジリエンス(心の回復力)が養われていきます。

 極端な「0か100思考」や「完璧でなければ意味がない」といった考え方に悩む高校生にとって、まず必要なのは「失敗しても大丈夫」という感覚を少しずつ身につけることです。ここでは、認知行動療法(CBT)の視点から、白黒思考や回避的な行動を緩和するためのステップをご紹介します。

<ステップ1:思考のクセを見える化する>
 まずは、「白黒思考」が自分の中でどのように働いているのかに気づくことが第一歩です。CBTでは、こうした思考のパターンを自動思考と呼び、何かが起きたときに自動的に頭に浮かぶ考えを記録します。たとえば、次のような形で書き出してみましょう。このように書くことで、頭の中で当たり前のように繰り返されていた「白黒の思考パターン」に気づきやすくなります。

<ステップ2:思考を柔らかくする練習>
 
自分の思考パターンに気づけたら、次はそれを「本当にそうかな?」と問い直す練習をします。これを認知再構成と言います。先ほどの自動思考に対して、以下のような問いかけをしてみましょう。このように「中間の考え方(グレーゾーン)」に触れていくことで、極端な思考が少しずつ緩和されていきます。

  • 「本当に完璧じゃなきゃ意味がないのか?」
  • 「60点の勉強でも、しないよりマシじゃないか?」
  • 「他の人も毎回完璧にこなしているのか?」

<ステップ3:行動実験で成功体験を積む>
 
考え方を緩めるだけでなく、「実際にやってみる」ことで新しい実感を得ることも大切です。CBTでは、これを行動実験と呼びます。たとえば、以下のように「完璧じゃなくていい」条件で国道してみることがポイントです。

  • 「課題を100%やろうとしないで、10分だけやってみる」
  • 「覚えきれなくても、1ページだけテスト範囲を読む」

 やってみた後は、以下のような気づきが得られることも多く,それが次の行動のモチベーションにつながります。

  • 「やってみたら意外と気分が楽になった」
  • 「10分だけでも進んでいた」

<ステップ4:気分より予定を優先する>
 
白黒思考の裏には、「やる気が出たらやる」という思考習慣もよく見られます。しかし、人はやる気が出ないときの方が圧倒的に多いものです。認知行動療法では、「気分よりも先に行動を起こす」という原則を大切にします。行動の時間や環境を先に決めておくのです。これは行動活性化と呼ばれ、うつ傾向の改善にも効果がある方法です。

  • 「勉強は毎日20時〜20時半と決めておく」
  • 「スマホはその間だけ親に預ける」

<ステップ5:「自分にやさしくなる」——自己評価の幅を持たせる>
 
完璧主義や白黒思考の背景には、「できない自分は価値がない」「他人に劣ってはいけない」といった厳しい自己評価が隠れていることがあります。ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)などでは、「不完全な自分をそのまま受け入れる」という練習をします。

  • 自分の考えをジャッジせず、「今、自分はこう思っている」とだけラベリングする
  • 「今の自分にできることは何か?」という問いに集中する

 このようなマインドフルな視点を持つことで、自己批判のループから距離を取ることができます。
 このように、白黒思考や完璧主義は、いくつかの認知と行動のクセが絡み合ってできているため、「考え方を見直す」+「行動を少しずつ変える」両方の視点から少しずつ緩めていくことが重要です。最初から大きく変わる必要はありません。「10分だけやってみる」「ちょっと考え直してみる」といった小さな試行錯誤こそが、長い目で見て確かな変化につながっていきます。

(参考文献)

  1. Yosopov, L., Saklofske, D.H., Smith, M.M., Flett, G.L., & Hewitt, P.L. (2024). Failure Sensitivity in Perfectionism and Procrastination: Fear of Failure and Overgeneralization of Failure as Mediators of Traits and Cognitions. Journal of Psychoeducational Assessment, 42(6), 705–724.eric.ed.goveric.ed.gov
  2. Chęć, M., Konieczny, K., Michałowska, S., & Rachubińska, K. (2025). Exploring the Dimensions of Perfectionism in Adolescence: A Multi-Method Study on Mental Health and CBT-Based Psychoeducation. Brain Sciences, 15(1), 91.mdpi.commdpi.com
  3. Zhang, Q., Zhou, Y., & Ho, S.M.Y. (2022). Active and avoidant coping profiles in children and their relationship with anxiety and depression during the COVID-19 pandemic. Scientific Reports, 12, 13430.nature.comnature.com