お知らせ

会食恐怖症について

社会不安障害という対人恐怖症の中のひとつに会食恐怖症という疾患があります。文字通り特定の場面や場所で食事をすることができなくなる病気です。新社会人や大学1年生など会食が増える時期(4月頃)に苦しくなって来院される方が多いです。子育て中の主婦ですとママ友との会食ができないという主訴で来院されます。またそのような会食が将来増えることを予想して、事前に来院される方も多いです。

病気の特徴としては、「会食ができない」という至極単純なものなのですが、細かい所では個人差が大きいです。例えば、ある人は1対1の会食なら問題ないが、3人以上の複数での食事は無理とか(もちろん逆のパターンもあります)、バイキングなど食事の量を自分で調整できる環境なら大丈夫だが、プレートで各自決まった量の食事をする環境は無理など色々です。外食そのものが全部無理、家族間や親しい友人間なら大丈夫・・・などなど様々です。

また症状も色々です。眩暈・動悸・息苦しさ、失神などパニック発作的な症状がメインの方から、吐き気・気持ち悪さなど身体症状がメインの方まで様々おられ対処方法も異なります。嘔吐に対して過度に怖がる嘔吐恐怖を合併することもあります。

男女比としては女性にやや多い印象ですが、男性の方も多く来院されます。性格傾向としては優しくて、怖がりで他人に過度に気を使い疲れやすい、自分よりも他人を優先する傾向があります。

病理学的には脳の扁桃体という不安・恐怖などの感情で反応する部位の過剰な活性化なのですが、過去の会食時に嘔吐をしてしまい周囲が大騒ぎになった吐きそうになって苦しいのに我慢して食べた学校給食で気持ち悪いのに居残りで無理やり食べさせられた、などの体験がトラウマになり発症した方もおられますが、原因ははっきりしない場合ももちろんあります。

治療としては、SSRI(代表的にはセルトラリン)などの脳内のセロトニンを増加させる薬剤をベースに使うことが多いです。ただしSSRIは内服初期に吐き気の副作用がでやすく会食恐怖では使いづらいこともあります。その際は抗精神薬のオランザピン、スルピリドといった食欲が増すような安定剤を追加すると大丈夫なことが多いです。

また薬だけ内服して改善することもあるのですが、基本的には暴露反応妨害法といった行動療法の併用が必要です(自分でこなすことも可能ですが、当院では心理士と一緒に行動療法を行うことも可能です)。行動療法では以下のような階層表を作り、1つ1つ不得意なことを克服していく治療です。

以下に架空のAさんの階層表に例をあげます。

上記のように不安度の低いものから順に細かいシチュエーションの設定(人数、友人かどうか、場所、プレートかバイキングか)をオーダーメイドで行い、1個1個克服していきます。ゲームでいうとどんどんレベルアップして強い敵を倒していくイメージでいいかと思います。1つ克服できると自信につながるため、次のステップへの以降は比較的容易なものになります。会食恐怖に罹患する方は受け身な方がほとんどなのですが、治療には積極的に敵を倒すような強く前向きな心が必要になります。また行動療法には薬物療法の併用がおすすめです。無理に負荷の強いシチュエーションを設定し、パニック発作など起こしたらその体験がトラウマになりさらに病状が悪化し会食を回避する可能性があるためです。薬を併用して心を守りつつ、前向きに行動を繰り返していくことで、会食恐怖を克服することが可能になります。