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会社の産業医との関わり方について

 働いている皆様方の職場の職員数が50人以上の場合、「産業医」という医師免許をもった先生が常勤または非常勤で会社に勤務しております。「産業医」についてあまり知識のない方も多いので、今回は「産業医」の利用の仕方や注意点について述べたいと思います。産業医の役割は多岐にわたるのですが、ここではメンタルクリニックと関係する業務について焦点をあてていきます。

 職場での人間関係、長時間労働、業務内容などのトラブルなどを契機にうつ状態になり、メンタルクリニックに通院されている方が多いと思います。当院でも、労働環境への不適応から精神のバランスを崩して受診される方が初診の半数弱を占めます。病名としては適応障害が一番多いのですが、治療として一番効果的なのは一時的に休職をすることです。ただ安易に休職することが難しい職場も多いです。真面目な性格から休職することで逆に気をつかって心身のバランスを崩すケースもあります。休職が困難な場合には、薬物治療をしつつ業務量の低減や異動など今後の働き方を職場の人事課や上司と相談していく流れになります。

 適応障害で休職すると、うつに関連する症状は速やかに改善することが多いです(早いと数日~1週間)。精神症状はこのように比較的簡単に改善するのですが、問題は職場復帰後の環境調整です。同様の業務内容・人間関係では再発必至であるため何らかの介入が必要になります。

 この復職の際に産業医を利用することが多いです。基本的に会社側から産業医面談を受けるように指示されます。産業医の役割としては、主治医からの診断書を基に、皆様と面談し復職後の勤務時間、場所、内容などを人事課や上司などの関係者と相談して調整することです。具体的には職場の関係者に向けて意見書を作成することになります。会社には法律上定められた安全配慮義務という「社員の心身の健康に配慮した職場環境の改善」をする義務があるため、意見書の内容を無下にはできないのです。もちろん最終的に配置転換などの決定は会社が行うことになるので、意見書の内容に従わないこともあります。

 医師の中で「産業医」は比較的珍しい存在です。医大を卒業後または研修後にすぐに産業医になる医師はほとんどおりません(北九州の産業医大という産業医育成を目的に設立された医科大学を卒業された方はすぐに産業医になる方もおられます)。ほとんどの産業医は内科や外科などの医師が、専門とは別に産業医講習を受けて認定産業医という資格を取得して産業医になるのです。資格を取得するのは比較的楽なのですが、その後の業務となると話は別です。

 昨今はサービス業が産業の主体となっており、メンタルヘルス関係の相談が業務の主体となっている産業医が多いと思われます。内科や外科の専門の医師では、専門外のメンタルヘルス関係の対応は不得手であることも多く、クリニックで診断書を作成してもうまく内容が伝わらないこともあります。本来産業医の業務である復職後の業務内容の調整などを主治医に丸投げしてくるケースもありますが、上記のような理由から致し方ない面もあります。もちろんメンタル系の専門外の医師でも優秀な方も多く、きちんと対応して頂けるケースも多いです。

 また本来産業医は会社側と労働者の間に立つ中立的な立場で意見を述べるのですが、会社側から給与をいただいているので、やや会社側に立場が偏りがちです。私自身も産業医業務を非常勤で数社担当しておりますが、会社と労働者で意見が異なる場合はやや会社側にスタンスを置くことが多いです。

 日本の会社システムの中では、健康上の問題があった場合の休職・復職の際に産業医と関わることがありますが、産業医にも不得手な分野があることや、中立よりは会社側の立場に立ちがちであることも考慮に入れていただいて面談に望まれるとよいと思います。