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高校生の診療に関すること

高校生の不登校でよくみられる「スイッチ」について

心理士鈴木記載の文章です。鈴木は普段高校生のカウンセリングを多く行っております。診療の参考にして下さい。

 当院では高校生も受診されることがありますが、成人とは異なる高校生に特有の悩みとして不登校が挙げられます。不登校に至る背景は様々で、詳しくは当院HPの「高校生のメンタルヘルス」をご参照ください。

 ここでは、そのうちの1つであり最近多く見られるものについて取り上げたいと思います。それは、「友人や先生との間に特に大きなトラブルはなく、周りから見るとなぜ登校できないのか分からないけれども不登校が続いている」というものです。本人に卒業したい意思はあるものの、登校しないため欠席回数が増えていき、もう少しで単位が取れず留年になってしまうという状況で受診されることが多いです。本人以上に親御さんが事態を重く受けとめ、何とか登校できるように苦心されている印象です。

 このような場合のなかには、本人なりに学校へ行くためのスイッチがあり、そのスイッチが押されると、これまでとは打って変わって毎日登校を続けるということも珍しくありません。中学までは「学校へ行くのが当たり前」というスイッチが押されているため、登校が続いていることが多いですが、高校生になると環境も変わって、別のスイッチが押されるようです。

 このスイッチが何なのかを明らかにすることは難しいですが、あと1回授業を休むとその単位が取れないというような、出席回数がギリギリになることそのものがスイッチとなっていることがあります。そのような場合、ほとんどの授業の単位取得がギリギリになった段階で、登校し始めるということにつながります。

 スイッチが押されやすくするためには、あと何回休むと単位が取れなくなるということを数字で表すことが大事です。「数IIの授業はあと〇回で単位がとれなくなる」、「体育の授業はあと〇回」のように、全ての授業について残りの欠席可能回数を示す必要があります。出席数が足りなくても補修を受ければ単位が取れる、というようなパターンについても、出来るだけ曖昧にせずに全て書き出してみてください。あと何回であるか自分で把握していない場合は、正確な日数を担任の先生等に確認するようにしてください。こうすることで、あとどれくらい休むと単位が取れなくなるかを明確に意識することにつながります。

 また、本人なりの学校へ行くためのルーティーンのようなものがある場合があり、そのルーティーンを行える環境づくりが大事です。例えば、「制服を着る」がスイッチの1つになっていることもあり、制服を着たら流れで登校まで進められるという方もいらっしゃいます。その一方で、制服を着てしまうと登校せざるをえなくなると考えることから、制服を着ることが出来ない方も多いです。

 起床時から順番に行動を書き出し、どこまでは負担なく出来る行動なのかを明確にすることが役立つ場合があります。目を覚ます→起き上がる→電気を点ける・・・等、毎朝のルーティーンを思い返し、最初に嫌だなと思う、抵抗感がある行動をピックアップします。内容にもよりますが、それをしなくても済むように次の行動に進められるようにルーティーンを組み替えることで登校に対する負担感が軽減されることがあります。何が本人にとってしっくりくるかはやってみないと分からないところも大きいため、色々試してみることが大事だと思われます。

 周りの人や親御さんからすると、ギリギリまで粘って学校を怠けているように見えるかもしれません。また本人も、自分が無意識にそのような基準に沿って行動している場合は、どうして突然学校へ行けなくなったのか自分でも分からず、困惑していることもあります。共通して言えるのは、ギリギリにしようとしてわざとやっている可能性はかなり低いということです。それよりも、もっと余裕をもって過ごせたらと思っているけれども、なぜかそれが出来ずギリギリになってしまうということの方が多いです。

 そのため、周りが焦って本人を登校させようと働きかけても、スイッチが押されない以上あまり効果的であるとは言えず、むしろ「自分のことを分かってくれない」という気持ちを強めることにつながる可能性があります。

 登校しているかどうかだけが大事なのではなく、登校していない今の状況で感じていることに目を向けることも大切です。これは本人だけでなく、親御さんにとっても同様だと考えています。周りと比較して焦りや不安を感じていたり、苦しい状況から一時的に抜けられている安堵感を感じていたりもするかもしれません。どうしてそう感じるのかを紐解くと、自分が何を大事にしているのか、どういう価値基準で生活しているかを理解することにもつながります。また、カウンセリングではこのような考え方(認知)に注目して、それが唯一の考え方なのか、他の捉え方も出来るのではないか等を改めて振り返ることもあります。

 以上より、出席日数を可視化すること、ルーティーンの中で登校を阻害している要因がないか一つずつ確認すること、そして今自分が感じていることの背景にはどういう価値観があるのか向き合ってみることが、大切なことだと考えています。

ミソフォニア(misophonia)について

 ミソフォニアmisophoniaは音嫌悪症といわれ、特定の音に対する強い否定的感情(怒り・嫌悪)と不快な身体的反応を示す疾患です。当院の外来でもたびたび遭遇する疾患で、簡単にまとめたいと思います。特定の音に対する不快感情のため、日常の特定の場面や状況で、生活することそのものが困難になり受診につながることがあります。

他人の咀嚼音が不快な理由は音嫌悪症の可能性が高い - ナゾロジー さん


 具体的には、家庭内では嫌いな家族(例えば父親)が出す咀嚼音や生活音であったり、学校では友人が出す高い声であったり、職場では人が叩くタイピングの音であったりケースにより様々です。強い不快感情や併発する身体症状(頭痛・吐き気・めまい等)のため不登校や出社困難になることもあります。

 性別では女性に多く、患者さんの平均年齢は35歳程度といわれておりますが、発症は思春期に多いとされております。

 原因は、先天的というよりは後天的であり、感覚(聴覚)がトラウマと化したものといわれております。例えば自分の非常に嫌いな人がいて、その人がたびたび出す音や声に長期間、理不尽に晒され我慢しつづけた結果、音や声がトラウマとして脳に傷が残り「特定の音⇒不快感情」という神経回路ができてしまうことが背景にあるといわれております。

 強迫性障害、うつ病、ADHDなどの精神疾患や気管支喘息などの身体疾患に合併しやすいといわれております。

 治療としては音そのものを避ければいいわけですが、日常に溢れた生活音であったりすると耳栓やノイズキャンセリングも上手く利用できず生活そのものに支障がでます。また音そのものの問題ではなく音が媒介する嫌悪感が治療のターゲットといわれております。


 薬物療法としてSSRIを使用することがありますが、治療としては認知行動療法などの心理療法が有効とされております。トラウマが強い場合はトラウマに焦点を当てた身体志向の心理療法も併用することが望ましいです。

思春期妄想症について

 思春期は自分が人からどう思われるのかについて、他の世代より気にしてしまう時期です。思春期心性として自然なもので、自我の発達過程で必要な過程なのですが過剰になった場合は病的なものと考えられます。

 例えば、周囲の人(ほとんどが友人)が話しているだけで自分のことを噂していると考えたりすることがあります。これを関係念慮または関係妄想といいます。また自分は体臭がひどく人に臭いと思われているといった自己臭恐怖、自分の顔は明らかに劣っている、不細工であるといった醜形恐怖、人にじっと見られているといった視線恐怖(逆に自分の視線が人に迷惑であると考える自己視線恐怖)に至るまで様々なものがあります。これらをまとめて思春期妄想症ということがあります。

 外に出られず不登校になることもあり、病的なものであれば治療介入を行います。薬物療法だけでは難しいケースが多いため心理カウンセラーによる心理療法(認知行動療法など)を組み合わせることが多いです。