薬についてQ&A

薬についてQ&A

精神科・心療内科で扱う薬は多種多様であり、当院でも通院しているほとんどの方は何らかの薬を内服しております。薬の関するよくあるピットフォールについて本日は取り上げます。よく受ける質問について答える形式にしたいと思います。

知り合いに精神科薬を飲んでいる人がいる。その人をみていると自分も同じようになると思うので飲みたくない。精神科の薬を飲むと逆に頭がおかしくなると思ってしまう。

A

薬の副作用の心配をなされていると思います。確かに病状がよくなっているにも関わらず漫然と薬を飲んでいる場合は鎮静などの副作用が前面にでやすくなることがあります。しかし因果関係が逆と考えられるケースも多いです。「薬を飲む→病状が悪くなる」ではなく、「病状が悪い→薬を飲む。飲んでも回復には至っておらず病状がよくない」ということが多くのケースで認められます。「薬を飲む」という行動と「病状が悪い」という現象が同時期に起きるため、因果を逆に捉えてしまうのですね。それは致し方ない面もありますが、非常に有用な薬も沢山あるので、これを理由に薬の処方を完全に拒否するのはもったいないかなとも思います。

ネット情報や薬剤師からもらった薬の説明用紙には沢山の副作用が書いてあった。怖くて飲めない。ネットには悪魔の薬とも書いてある。

A

副作用情報には頻度としてほとんどないものまで、ありとあらゆる症状が記載されております。私も医学生時代はそれをみてびっくりしました。しかし、通常起きうる副作用はその情報の中のごく一部であり、しかも一部の人にしか出現しません。なぜそこまで沢山の症状を記載するのかについて、邪推ですが、薬害訴訟が起きた時に製薬メーカー自身の身を護るためといった面もあると思います(がこれは定かではありません)。病院で手術を受ける時もインフォームドコンセントといって治療の同意書を書かされますが、まれな合併症まで事細かくに説明されると思います。それに近いあるいはそれ以上のものと考えていいと思います。

また当然ですが副作用について適切な配慮は絶対に必要です。よく起きる副作用については注意深くみていかないといけません。しかし過度な心配であれば、逆に治療の妨げになることが多いです。

またこちらが求めている薬の薬効についてもネット情報では不十分なことがあります。例えばアリピプラゾール(エビリファイ)という薬について統合失調症、双極性障害などの疾患で使用されると記載されておりますが、少量1㎎であれば過眠症の治療薬として利用できます。その情報を知らないと、薬の名前だけで判断して処方した主治医に大きな不信感を抱くことになりかねません。他のクエチアピン(セロクエル)という薬についてもネットや教科書では統合失調症の薬として取り上げられておりますが、少量では睡眠薬の補助として非常に有効です。実際の臨床現場とネット情報は往々にして異なることがあります。

また病名についてひとつ追加すると、病名には保険病名(レセプト病名)というものがあります。日本の保険制度上、診療報酬を得るために薬に対応した病名をつけないといけないのです。よって不安障害の患者さんのカルテの病名欄には統合失調症といった記載はよく認められます。これはルール上の問題なので気にしないことが重要です。
また悪魔の薬は当然ありません。

薬を飲んで調子が悪くなった(胸が痛くなった、呼吸が苦しくなった、めまいがした・・・・)ので飲むのをやめてしまった。

A

診療時間内に電話で主治医に薬をやめるべきか続けるべきか確認して下さい。精神科薬で一番難しいのが、今でている症状が病状の一部なのか副作用からの症状なのかの見極めです。例えば吐き気がでた場合もSSRIといった抗うつ剤の副作用の可能性もありますが、うつ病の身体症状の可能性もあります。また眩暈がでた場合も然りです。非常に判断が難しいところもあり、内服継続の可否について主治医に相談することが望ましいです。ただしクリニックが診療日でないこともありますのでその時は処方した薬局の薬剤師に確認して下さい。薬局も閉まっている場合は、致し方ないので内服継続するかどうかについて自己判断でお願いします。薬をすぐにやめるべき一番の理由はアレルギー反応です。とくに薬疹として皮膚に湿疹が出現した場合などは躊躇せず、すぐに内服を中止下さい(てんかんの薬でやや多く認められます)。すべての薬剤でアレルギー反応・薬疹は出現することがあるので、こればかりは完全に防ぐことはできません。

またノセボ(ノシーボ)反応というものに注意してください。ノセボ反応とは、本来薬として効果を持たないものを服用しているのに、望まない有害事象が現れることです。実薬を内服しても副作用として非常に少ないものを訴える場合(非特異的反応)も当てはまります。薬ではなく砂糖を内服していても、場合により有害事象が50%出現するケースもある位です。

特に高価な薬剤はノセボ反応おこしやすいといわれております。効きそうな薬→強い薬→副作用が多いという考えで、効果への期待と副作用への不安の強さが相関するといわれております。

精神疾患でもともと不安障害や強迫性障害などがあったりすると、このノセボ反応が誘発され治療の妨げになります。治療においてはノセボ反応をいかに起こさないようにするかが重要です。安易にネットで薬剤副作用情報などが手に入るため、その副作用情報を読む込むことでノセボ反応が誘発されることもあり、なかなか難しいところでもあります。

調子がちょっと悪くなったから抗うつ剤を飲んだ。調子よくなったから勝手にやめた。

A

これは間違いです。気分のアップダウンはうつ病の治癒過程の一部であり、それに合わせて薬を勝手に調整してはいけません。抗うつ剤は一定期間内服を継続することで脳のホルモンバランスが安定化していき、精神症状が波をつくりながら徐々にゆっくりと改善していく性質のものです。自分の症状に合わせて飲む薬として頓服の抗不安薬や睡眠薬がありますが、それと同等には考えないで下さい。抗うつ剤の調整は主治医の判断が優先されます。

薬が効かないから辞めた。言いにくくて黙っていました。

A

これも先程の理由から間違いです。一定期間効かないと「この薬は効果がない」と考える気持ちも理解できますが、特に抗うつ剤は効果がでるまで時間がかかり、また症状に波があるため分かりにくいことも多いです。逆にすぐに症状が改善するもの例えば覚せい剤などはすぐに抗うつ作用を発揮しますが、非常に危険な薬物で、使用は国内国外を問わず禁止されております。

またどうしても薬を飲みたくない場合は正直におっしゃってください。薬なしでもうつ病は自然軽快することはもちろんあります。しかしすぐに成果が求められる現代社会において、治療に長い時間をかけられない中、性格傾向でくよくよしやすい、生真面目で休職してもゆったりと自宅で休めないような方について、薬なしの自然治癒を選択するのは無理があるのかなとも思います。

強い薬は飲みたくない。弱い薬にしてくれ。

A

これもいくつかの点で間違いがあります。薬の強い弱いというよりは薬の量と本人の症状や体質との相性が重要です。薬は必要十分な量を適切に内服することが重要です。強い薬といわれるものでも、ほんの少量を使うことで副作用なく望ましい効果が得られたりすることもある一方、弱い薬についても量が多ければ身体に負担になります。例えば醤油なども一般的には毒とは考えませんが、100ml飲んだら命を落とす可能性があるといわれております。水も然りで5L程度一気に飲むと死ぬといわれてます。

薬は強い弱いではなく、その質と量及び本人の症状や体質との相性の問題と考えて頂きたいです。

依存する薬は飲みたくない。

A

依存しやすい代表的な薬にベンゾジアゼピン系薬剤というものがございます。抗不安薬、睡眠薬として主に使用されます。確かにベンゾジアゼピン系薬剤の依存性は古くから有名ですが、使用方法や使用量、使用場面に気を付ければ非常に利用価値の高い薬です。

苦しいときに飲むと非常に楽になるため、人生が慢性的に苦しい人は常用してそこから抜けられないという罠があります。アルコールやニコチン依存と同様でこころの痛みの改善を目的に過剰に使用されてしまう傾向にあります。

考え方、とらえ方の修正、生活習慣の改善、環境調整、他者からの助けや関わり、経済的な問題の改善などで、薬に頼らずともまずまず現実に対処できる力(レジリエンス)がつくことが、依存から脱する一番の早道です。

健常者には理解しがたいかもしれませんが、生きていくこと自体に限界を感じ毎日生きるか死ぬかのギリギリな方もおります。そのような人について、薬に依存するのことはアルコールやニコチン、違法薬物に依存することに比べたらまだましではないかと考えております。アルコール依存症の治療でも最近はハームレダクションという考えがあります。アルコール依存症の集団精神療法に参加させるためにあえて酒を治療の場で出すといった発想です。信じられないかもしれませんが、一部の医療機関では治療の場で少量のアルコール摂取がなされております。いわゆる酒盛りです笑。有害性の大きいものをゼロにするのは大きなストレスがかかり、かえって病状を深刻化させる可能性があるため、あえて有害性の小さいものを許容するといった発想です。アルコール摂取から処方薬摂取に切り変えることや、主婦であれば不倫するのではなくてオシのアイドルにはまるなどがハームレダクションに相当するのではないかと思います。

また依存性が少ないとされつつ、様々な問題を抱えている薬もあります。例えばデエビゴやベルソムラといった睡眠薬です。依存性が少ない、副作用が少ないという謳い文句でマーケティングがなされ大量に使用されておりますが、悪夢が多い、効果が安定しないなどの理由から一部の患者さんからは非常に評判の悪い薬です。睡眠薬としてはベンゾジアゼピン系の方が安定感があり使用しやすく患者さんもそちらを求めます(それが依存といってしまえばそれまでですが・・・)。

またここからは不正確な事かもしれませんので聞き流して下さい。先程のベルソムラ、デエビゴに関しては最近市場に出てきたいわゆる先発品といわれる薬であり、相手方となるベンゾジアゼピン系の薬のほとんどは古い後発品薬です。両者の間で薬の値段がおよそ10倍違います。もちろん先発品が高価です。他の業種の会社同士やまたは国同士などでもそうですが、過去にすぐれた安価なサービスがあり高価な新サービスがそれに勝つために、必要以上のネガチィブキャンペーンがなされる可能性があります。他の例として、便秘薬のマグミットという優れた薬が昔からあり、それは非常に廉価な薬です。新薬のアミティーザという薬が上市され、マグミットへのネガティブキャンペーンが医師以外に一部の看護師にもなされました。以前の病院内で私がマグミットを普通に処方していたら、キャンペーンを真に受けた看護師から非常に強いお叱りを受けてしまい酷い目にあった経験があります。大手製薬メーカーのマーケティング力の凄さを垣間見た事件でした笑。

薬をずっとこのまま飲まないといけないのか?

A

そんなことはないです。症状が改善すれば薬の減薬・中止は十分可能です。統合失調症などの一部の疾患については基本的に継続した内服が必須ですが、一般的な不安症、うつ病では減薬・中止は十分に可能です。また減薬・中止のために認知行動療法などの心理療法の併用が必要かもしれません。

薬の量や服薬期間や、必要な通院期間について、本人の疾病理解の程度とも関係があります。例えば双極性障害という疾患では、本人自体がやや気分が高い状態(軽躁状態)を好むため、気分安定薬をしっかり飲まないことがあります。軽躁状態を放置してその期間が長く続いた結果、うつ状態が長くなり逆に服薬量が増え、服薬期間も長くなるということがあります。

また薬を減らすには環境調整なども必要なのですが、双極性障害やADHDの方でわざわざ刺激の多い場所やもの・人を求めていき、アルコールに走ったりして気分の波を大きくしてしまうことがあります。持続不可能な無理な生活を辞められない人もおり、このような方は減薬が難しくなります。

減薬を急ぐあまり、そのタイミングを間違えると逆に症状が悪化して服薬期間が伸びることもあります。パニック症や不安症などがSSRIにて寛解しているのですが、減薬を急ぐあまりかえってパニックを誘発することがあります。うつ病で抗うつ剤を使用している時も、「薬がない状態が治った状態である」と考えとにかく減薬・中止を急ぎ、かえってうつ状態を悪化させ治療期間を長引かせることがあります。
また考え方、捉え方が柔軟であることや、ちゃんと薬以外の方法で脳を休めることができるかなども減薬・中止に必要な要素となります。

まとめると、薬を飲む場合にそれを辞められないことは全くなく、十分可能です。ただしその条件として、①特定の疾患(統合失調症など)でないこと、②疾病理解ができていること、③環境調整をきちんと行うこと、④減薬を焦らないこと、⑤脳を休めることが不得手でないことなどが上げられます。

薬をたくさん出して医者は大儲けしている。だから沢山処方するんだろ。

A

完全な間違いです。特に当院は院外処方であり院内では一部の薬品しか扱っておらず、薬を沢山処方しても全く儲かりません。逆に処方を沢山すればするほど、処方せん料という報酬が減額される仕組みになっております。つまり薬を処方しても全く儲からないのどころか、逆に沢山処方すると売上が減っていくのが事実です。普通にネットで調べればわかります。

睡眠薬を飲んだら金縛りにあった。薬のせいだから、薬を飲みたくない。だけど眠りたいので何とかしてほしい。

A

一部正解で一部不正解です。一部の睡眠薬では悪夢が多く金縛りに近い現象を誘発することはありますが、金縛りの原因は薬の副作用ではなく、薬の量が不十分ということもあります。麻酔薬でもそうですが、本人の鎮静・睡眠に必要十分な量を適切に投与することが重要です。内服する量を躊躇して本人の脳にとっての必要量に比して薬の量が少ないと、中途半端な鎮静になって金縛りなどの現象を誘発することがあります。中途半端に薬を飲むのであればむしろ薬を飲まない方がいいこともあります

以上、診療の中でよく質問されること、まれに言われたことをQ&A形式でまとめてみました。薬に対する理解を深めて頂けると、診療の中でも無用のトラブルを避けることができ、お互いにハッピーになれると信じております。ぜひ参考にして下さい。