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行動療法(暴露反応妨害法)について

2022年11月4日

認知行動療法のうち行動により着目したものの中に暴露反応妨害法というものがあります。ここでは暴露反応妨害法を中心に行動療法アプローチについて概説いたします。

やめたくてもやめられないこと、やりたいのにできないことはありますか?

例えば精神疾患をお持ちの患者さんにおいては、以下の様なことが挙げられます。

・強迫症の患者さんが鍵の確認などの強迫行為をやめられない

・パニック症や広場恐怖症の患者さんが本当は出かけたいのに外出を避けてしまう

・社交不安症の患者さんが社会生活に支障が出るほどに人とのかかわりを回避してしまう

・仕事や家事などでうまいこと手を抜くことができない

・困っていても人に甘えられない、頼れない

この記事では、これらの行動の問題に対して行われる「行動療法アプローチ」についてご紹介します。

●行動療法とは?

行動療法の特徴として、誤解を恐れずにわかりやすく言うと以下のことが言えると思います。

・原因や過去の出来事を過度に分析・特定しない

・その代わりに、今まさに困っている行動を治療のターゲッ トとする

・困っている行動をなくすorやりたい行動を増やすことが目的

精神疾患の原因は、家庭環境、遺伝、対人関係、文化、時代背景など挙げればきりがありません。なぜ自分がこうなってしまったのか・・・と自分の歴史を紐解くことは時に有用ですが、答えのない問い長く向き合うことになります。原因を考えるうちに悲観的になったり過去は変えられないと絶望してしまう方もいます(症状の改善には必要な痛みであることも確かです)。
そこで行動療法では、まずは今起きているそして目に見えている行動を取り除くまたは増やすことを目的とします。そして症状となる行動が変われば、気持ちや考えも自然と楽なほうに変わっていきます。

気分や考えを変えるのは難しいですが、行動を変えるのはそれよりも楽にできます。「楽しい気持ちになって」と言われても多くの人は困惑するでしょうが、「口角を上げてみて」と言われたら(やりたいかどうかは一旦置いておいて)それなりにできますよね。

●その行動はどこからくる?

人間の行動には、それをする理由が必ずあります。そしてその理由には、「学習」が関係しています。例えば、ある行動をしたことによって良いことがあったらその行動は増えます。反対に、ある行動をしたことによって悪いことがあったらその行動は減ります。

これは心理学用語で「行動随伴性」と言います。(これを理解しなくても行動療法はできるので興味があればご覧ください。)

●4種類の行動随伴性について 

 ①ある行動をしたorしなかった時に、

簡単に言うと、これまでの経験(学習)によって、自分にとって望ましいことが起きる行動か、自分にとって望ましくないことが起きる行動かを判断して、私たちは行動を選択しているということです。

自分で判断し選択していることのはずなのに、人は行動の問題で悩まされます。それは、行動選択の際の判断基準が「推測」や「一時的な効果」に依拠し、その結果、「事実」や「長期的な効果」と乖離してしまうからです。そして、乖離した判断による行動が習慣化すると、次第に「本当は安全なこと危険と思ってしまう」「その行動をしないと危険なことが起こると思ってしまう」というような間違った学習を脳がしてしまいます。すると意志とは関係なく、行動を止められなかったりできなくなったりします。

しかし、ここで大切なことは、脳は再学習ができるということです。

この再学習を促すのが行動療法で行う暴露反応妨害法や行動実験です。その治療方法について、具体的な例を用いてご説明します。

●行動療法(主に暴露反応妨害法と行動実験による)の方法について

行動療法でまず行うことは、問題となっている行動の分析です。認知行動モデルにしたがって、きっかけとなる刺激に直面した後、考え(認知)・感情・行動がどのようなパターンで変化するかをひとりひとり個別的に分析し理解します。そして行動が生起して繰り返されるメカニズムを明らかにしていきます。例えばある強迫症の患者さんの場合だと、以下の様なモデルとなります(架空の事例です)。

矢印が循環しているように、行動の問題が起きているときは、悪循環が起きています。問題となる行動は一時的には不安や嫌悪感を低減させますが、その不安の低下は一時的なものなので、また同じようなきかっけとなる刺激に直面すると、同様の考えや感情が生まれ、同様の行動をとってしまうという悪循環です。

脳の中では、これまでの安全行動をとってきた経験から、知らず知らずのうちに、「鍵の確認をしろという強迫観念に従えば、恐ろしいことは起こらない」「不安や嫌悪感をなんとかするには、強迫行為をすればいい」という間違った学習がされているのです。

この悪循環から抜け出すために、悪循環の発端を考えてみましょう。

それは、一見問題とされる行動が、患者さんにとっては安全行動となっていることではないでしょうか。安全行動をしなくても恐ろしいことは起きないし、起きたとしても対処できることを再学習することができれば、脳からの間違った命令に従う必要もないと思えるでしょう。

再学習のために暴露反応妨害法や行動実験を行いますが、いきなり実践するのはとてもハードルが高いです。

そこで準備段階として、「感情の法則」「注意のコントロール方法(注意トレーニングや呼吸法)」を身につけたり、「不快な身体感覚の上書きを目的とする介入(当院では内部感覚暴露やソマティックアプローチを用います)」、「認知への介入(科学的・統計的な視点から客観的事実の検討や認知再構成法)」を治療者と一緒に行います。

多くの患者さんがこの段階で、症状のメカニズムやその対処法についてある程度理解でき、対処できる感覚を少しずつ持てるようになります(薬物療法も同時に行うとより効果的です)。症状の渦に飲み込まれる感覚から抜けて、症状と向き合いなんとかしたいというモチベーションが高まるよう治療者もサポートをします。

準備段階を経て、暴露反応妨害法や行動実験の実践に入ります。大切なことは「不安もあるけれどできそうなこと」から始めることです。どんなことならできそうかを治療者と話し合って決めます。

●暴露反応妨害法(エクスポージャー)の場合

強迫症の確認強迫行為の場合、以下のように不安階層表を作ります(以下は外出時に鍵が締まっているか儀式的に確認することが止められないという例です) 。不安階層表とは、不安のレベルを点数化して、階段のように並べたものです。そして、並べた行動をできそうなことから実践していくことで、「確認強迫行為をしなくても想像するような恐ろしいことは起こらないこと」や「不安や嫌悪感は時間の経過とともに自然と小さくなっていくこと」を体験していきます。

※おためしエクスポージャー

準備段階を経ても、最初のうちはひとりで上記を実践することは大変なことです。そこでカウンセリング内で治療者と一緒に行える、おためしエクスポージャーを行うことが多いです。治療者と一緒に安全・安心な中で最初の一歩を踏み出し成功体験となると、その後も治療がスムーズに進みやすくなります。

●行動実験の場合

暴露反応妨害法に加えて行動実験を行うことも効果的です。行動実験とは、患者さんが恐れていることの核(Core Fear)を明確化し、それに暴露していき再学習を促す方法です。

例えばパニック症の患者さんの場合、「パニックが起きたらどうしよう」という不安の根底に「人に迷惑をかけたくない」「異常な人だと思われたくない」という考えがあることがあります。そのような恐ろしい事態を回避するために、「外出をしない」「体調に異変を感じたらひとりになる」という安全行動をとり続けるようになります。

すると、人に迷惑をかけたり、人から変な人と思われても「まあ、それなりに生きていけるな」「意外と人は自分を見てなかった」という検証がされず、安全行動をしないと恐ろしいことが起きるという事実と乖離した間違った学習が強化されていきます。もし人に迷惑をかけたり、異常な人と思われたら「生きていけない」という思いに至ることもあります。

そこで行動実験では、あえて人に迷惑をかけてみる実験や異常な人と思われそうな実験をし、本当に恐ろしい事態が起きるのかを検証します。どんな行動で実験をするかは治療者と話し合って決めていきます。実験の仮説と実際の実験結果を検証することで出来事に対する捉え方に幅が広がり、問題となる行動をしなくても自然と楽に生きていける感覚が生まれることを目指します。

●おわりに

患者さんの中には、暴露反応妨害法などの行動療法に「つらい」「こわい」というネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃいます。その方にとっては、最も恐れていることであり、なんとか避けて生きてきたことに曝される療法とも言えるので、そんな気持ちになるのも自然なことです。

 だからこそ行動療法では、「準備段階で対処資源を獲得して」「できそうなことから少しずつ」「治療者と一緒に」行います。いきなり症状をゼロにするのではなく、それをしなくてもor

しても大丈夫という体験をひとつずつ積んでいくイメージです。もし途中で失敗したり、できなかったことがあったとしても、その理由を治療者と振り返られたら、より効果的な方法を考え選択するきっかけになり得ますのでご安心ください。