お知らせ

不眠症の心理療法について

2022年7月1日

当院ではエビデンスレベルで不眠症に対して有効性が指摘されている認知行動療法を心理士が行っております。薬に頼ることへの抵抗感や依存への心配があり、そうした声を患者さんからお聞きすることも多くあります。そのような方や減薬を希望される方にはこの認知行動療法がおすすめです。また長期的な不眠の解消という点では、認知行動療法は薬物療法よりも効果が高いことも実証されています

以下に不眠症の認知行動療法について概説します。

<不眠症について>

眠れなくて困っていませんか?

最後に自然とぐっすり眠れてすっきりと目覚めることができたのはいつでしょうか。

「なかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「日中は何だかだるくて集中できない」、、、

今や日本人の5人に1人がこのような睡眠に関する悩みを抱えているとされ、不眠症は国民病ともいわれています。

考え事があって寝つけなかったということは誰にでもよくあります(急性不眠)。しかしその後も夜間の不眠が改善せず、1か月以上にわたって続き、さらに不眠による心身の不調で日常生活に支障をきたすようになると「不眠症」と診断されます。

下図にあるように慢性不眠や慢性不眠障害のレベルまで不眠が続くと、「眠ろうとすればするほど眠れなくなる……」「自分は眠り方を忘れてしまった‥‥‥」といったように「不眠恐怖」が形成されます。

不眠が慢性化し、ベッドの中で眠気が来るのをひとり待つのは、とても心細くつらい体験でしょう。

不眠恐怖が形成されると、睡眠にまつわる考え方(認知)や、睡眠に関する習慣(行動)、日々の生活リズム(身体)にも大きなネガティブな影響がもたらされ、さらに不眠が深刻になり自分一人では治しにくくなってしまいます。

<不眠症へのアプローチ>

つらい不眠症状に対し薬物療法で改善を試みた方は当院でも多くいらっしゃいます。しかし、薬に頼ることへの抵抗感や依存への心配があり、そうした声を患者さんからお聞きすることも多くあります。

当院では、なるべく薬物療法には頼らない不眠症へのアプローチを行っています。

不眠症への心理療法的なアプローチについてご紹介します。

生活の質に大きく影響する睡眠の悩みに、なるべく薬に頼らない別の効果的な方法で一緒に改善してみましょう。

精神科・心療内科でできる不眠症へのアプローチは主に2つあります。

1,薬物療法……医師により処方された睡眠薬を服用します。

2,心理療法(認知行動療法)‥‥‥臨床心理士や公認心理師とカウンセリング(計6回程度)を行い、不眠を解決するプログラムを実施します。

それぞれのメリットとデメリットは以下の通りです。

<不眠症への認知行動療法の効果>

先ほどの表でも示したように、認知行動療法を行うことで、より持続的で多様な解決方法を身につけることができます。長期的な不眠の解消という点では、認知行動療法は薬物療法よりも効果が高いことも実証されています。

ではなぜ認知行動療法が不眠症に効くのか。それには、不眠が維持されるメカニズムが関係しています。

まずは「不眠が維持されるメカニズム」について説明します。

<不眠が維持されるメカニズムと認知行動療法>

ここでは「パブロフの犬」の例を使って不眠が維持されるメカニズムを説明します。

「パブロフの犬」はご存知ですか?

犬はエサをあげるとよだれを垂らします。これは犬の性質なので当然起こることです。また、鈴の音だけではよだれを垂らすことはありません。しかし、エサをあげるときにいつも必ず鈴を鳴らすようにすると、鈴の音を聞いただけで犬はよだれを垂らすようになります。これは犬の中でエサと鈴の音が結びついたためで、心理学では「古典的条件付け」と言います。

この「古典的条件付け」は不眠にも当てはめることができます。私たち人間も動物なので「古典低条件付け」は起こります。

ベッドに入ってから何となくスマホを見る癖がついたり、夜中に起きてはやっぱり眠れないとがっかりすることが習慣になると、どうなるでしょうか。

今日こそはしっかり寝ようと思っても、ベッドに入っただけでパブロフの犬のように「スマホモード」「落ち込みモード」に知らず知らずのうちに切り替わり、ますます眠れないことになってしまいます。

不眠が維持されるメカニズムは、上述の「古典的条件付け」という「負の連鎖」が元凶にあります。

不眠症への認知行動療法では、まず「行動」や「身体」の変容を目指します。「行動」と「身体」と「認知」は歯車のように密接に関連しています。

そこで認知行動療法では、まずは「行動」や「身体」へのアプローチを行います。「楽しい気持ちになってみて」と言われても難しいですが、「笑ってみて」と言われたらそれなりに実践できるでしょう。なので最初は目に見える「行動」と「身体」の変容がターゲットとなります。

すると歯車が回るように自然と「認知」の変容が促されます。そして最終的には不眠が改善するという仕組みです。

また、睡眠について専門的知見をお伝えし、患者さんが睡眠について正しい知識を身につけることも重視しています。睡眠マスターになって、睡眠というターゲットを攻略していきましょう。