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うつとうつ病 その(1)

2020年5月3日

しばらく数回にわたりうつとうつ病について扱います。患者さんと病気の本質を共有することは治療上非常に有効と考えておりますので、是非読んでみて下さい。

有名な教科書や他のブログに書いてあるようなセロトニン・ノルアドレナリンなどの脳内ホルモンの異常などの生物学的な話ではなく、うつの本質を踏まえた上での話をして、そこから自然と導かれる治療・態度にふれていきます。


Ⅰ.うつの本質

まず前提として「うつ」とは何か?ですが、「脳の疲れ」とおおざっぱに考えていいと思います。これは大事なので覚えておいてください。うつは脳の疲れのことです。歩くと足が疲れる、筋トレして腹筋が疲れるなどと全く同じ理屈です。ただし、一つ大きな違いがあります。身体の疲れであれば通常痛みますよね。例えば30㎞歩いた次の日は筋肉痛で足が痛い、腕立て50回すれば上腕が痛くなるなど・・・。脳の場合は、頭痛が起こる場合もあるのですが通常は痛くならずにうつになるのです。その理由は脳は神経細胞の塊なのですがその内部には痛覚神経がないから、痛みとして感じないのです。


Ⅱ.痛みの効用

「やった~痛くならないからラッキー」という訳ではないのでご注意を。本来生体は痛くなるから、痛みで動けず治癒反応が生じるのです。足が痛いから動けない、お腹が痛いから動けないなど体が動けなくなる、動かなくなることで生体ではその間に一生懸命に傷を修復しているのです。有名な例ですが、糖尿病で足が壊疽(いわゆる腐敗した場合)を起こした場合、痛くないので歩いてしまい、より状態は悪化しやすいといわれております。足を骨折して歩いてばかりいたら骨はつながらないですよね。ケガをした時に動物も穴倉でじっとしています。我々も風邪をひいても寝てじっとして治しますね。生体は動きを止めている間、そのみえない内部では治癒反応がすすんでいるのです。

逆に脳の疲れでは、痛みがでないので疲れたとわかりづらい特徴があります。それがうつが悪化したり再燃したりする原因と考えられます。ちゃんと疲れて休んでいれば本来うつにはならないあるいはすぐに治るはずだからです。

また一方でうつになるから脳が修復するともいえます。うつにならない脳であれば完全に故障するまで病状がすすむとも考えられます。うつが脳を守っているという発想です。

痛みやうつはもちろん排除したい症状とは思いますが、その利点にもちょっとでいいので注目すると視野が広がりますよ。


Ⅲ.脳の疲れでみられる症状は?

それでは、痛くならない脳の「疲れ」であるうつの症状にはどのようなものがあるのでしょうか?もちろん、うつというからには抑うつはあることが多いですが、それも絶対ある訳ではないので注意が必要です。抑うつがないのにうつとは不思議ですが、うつの本来の定義は脳の疲れなのでそんなこともありうるのです。特にこどものうつでは抑うつの症状がはっきりしない場合が多くイライラといった焦燥や興奮の症状が主体の場合もあります。うつの3大症状としては抑うつ、不安、意欲低下などありますが、その他にも不眠、興味・関心の喪失、自責感、希死念慮、思考抑制・・・様々なものがあり、これがあればうつといえるものはないのが実情です。それがうつをさらに分かりにくくしております。

ここでは分かりにくいうつの症状の中で、私なりにこれは大事と思った症状を3つあげさせて頂きます。

まず一つ目は不眠です。うつでは脳が疲れるので本来なら睡眠は必要になるのですが、うつになってしまうと逆に眠れなくなる場合が多いのです。もともと緊張した性格があり、その緊張のため眠れず脳が休まらずうつになるのか?うつになるから不眠になるのかの因果関係はいまいちわかりにくい場合もありますが、現象としてはうつと不眠は切ってもきれないものなのです。入眠困難、途中覚醒、早朝覚醒とすべての不眠のパターンが認められます。不眠に陥り脳が休まらずうつがさらに悪化、うつが悪化するとさらに眠れなくなるという悪循環に入る特徴があります。

二つ目は朝の気分の不快感です。うつになった方の多くは夕方には調子がよくなるのに朝起きたときに気分が悪いという特徴があります。不眠と関係していて、睡眠により脳がしっかりと休まっていないことが背景にあると思われますが本当の理由については不勉強で分かりません。

それで三つ目はイライラと涙です。不思議ですがイライラもうつの症状なのですね。例えばすごく仕事で疲れたときに、イライラして周囲に当たってしまう場合が多いと思いますが、その時のイライラは脳が疲れている証拠なのです。例えば勉強しない子供に仕事で疲れた母親が怒っている場面を想像した場合に、勉強しない子供が悪いと考えることもできますが、実際は母親が軽いうつに陥っていて母親の問題と考えることもできるのです。こどもも勉強に向いていない子が沢山勉強を強いられるとイライラしますね。これも軽いうつです。また普段なら何でもないことでも涙がでることもうつの特徴的な症状です。

産後うつなどで夫やこども害してしまう事例がありますがそれはこのイライラ、焦燥の症状が関わっていると思われます。以上、不眠、朝の気分不快、イライラ・涙についてうつの重要な症状と考えられるので覚えておいて下さいね。