お知らせ

うつ病の診療の流れ 治療後半

2021年6月2日

うつ状態の治療について当院で行っている大まかなものの内容をまとめます。

<脳を十分に休ませること>

これはどのうつ状態でもすべてに共通の治療の一丁目一番地です。脳の疲れなので休養が重要なのは当たり前といえば当たり前です。捻挫、骨折でも安静が大事ですよね。それと全く同じ理屈です。極端なことをいえば、ちゃんと休めればそれだけでほとんどのうつ状態は改善します。具体的には①ぼんやりすること、②よく眠ることが重要です。ただし眠ることはまだしもぼんやりすることは意外と難しいです。特に仕事や家庭で様々な悩みを抱えていたり、経済的な問題を抱えている中で頭を空っぽにすることは現実的に難しいと思われます。具体的なやり方などは当院HPの「うつとうつ病についてのまとめ」に記載しておりますが、やはり次に述べる薬物療法の中のBzという薬剤を利用したほうがいいかと思います。


<薬物治療>

眠剤、Bz SSRI SNRI TCA、NaSSA、漢方などを使用します。それぞれの薬剤の代表的なものと使い方を説明します。

眠剤:よく眠ることがうつ状態改善で最も重要なことです。当院でよく使用する眠剤はゾルピデム(マイスリー)ですが、入眠困難・途中覚醒・早朝覚醒など症状や病態に合わせて様々な眠剤をテーラーメイドで処方致します。次に述べるBzもよく使用します。

Bz(ベンゾジアゼピン系):沢山ありますが当院で使用するのは、長時間作用型のロフラゼプ酸エチル(メイラックス)と中時間作用型のブロマゼパム(レキソタン)です。簡単にいうと脳の疲れを癒す湿布と考えて下さい。脳が疲れて腫れているので冷やして治癒を促すと考えればわかりやすいと思います。自分で瞑想などを行って頭をからっぽにできる人はこの薬は必要ないのですが、それができないのでうつ状態になっているはずなので基本的には飲んだ方がいいと思います。副作用としては眠気、ふらつき、依存などがあります。眠気・ふらつきが強い場合は量の調整で問題ないことが多いです。依存についても超短時間や短時間作用型でないためそこまで気にしなくてもいい問題と考えます。またBzではないのですが、クエチアピン(セロクエル)という抗精神薬を当院では頻用します。うつ状態であるにも関わらずBzでは脳が全く休まらない方には、少量の抗精神薬は非常に有効です。脳の動きが強制的にシャットダウンされる感覚になります。ただし飲む時間や量については十分な調整が必要ですのでよく主治医に相談下さい。

SSRI:不安・緊張が強いうつ状態に効果的です。セルトラリン(ジェイゾロフト)という名前の薬をよく使います。脳内のセロトニンという幸せホルモンが増える事で、脳内のホルモンバランスがとれてうつ状態が改善します。効果がでるまでに1~2週間かかるので効果がないといって焦らないことが重要です。また内服初期に吐き気が数日でることありますが飲んでいる内にほとんどが改善します。

SNRI:意欲低下が強いうつ状態に効果的といわれております(実際はそこまでの効果はないかなという印象ですが・・・)。イフェクサー、サインバルタという薬をよく使います。脳内でセロトニン以外にノルアドレナリンという意欲ややる気に影響するホルモンが増える事で、脳内のホルモンバランスがとれうつ状態が改善します。これもSSRIと同様に効果がでるまでに1~2週間かかるので飲み続けることが重要です。また副作用については吐き気はSSRIと同様にありますが、動悸、発汗などの交感神経亢進の症状がでることがあります。

NaSSA:作用機序はやや複雑でありますが結果的に脳内のセロトニン、ノルアドレナリンの効果を上げる作用があります。ミルタザピン(リフレックス)という薬を使います。効果がすぐにでることと催眠作用があり睡眠薬として使えるという利点があります。ただし副作用としては食欲増加⇒体重増加があり肥満の方には使いづらいです。

漢方:不安に対して加味帰脾湯、不眠に対して酸棗仁湯、気鬱に対して補中益気湯、低気圧・雨の気分不快に対して五苓散、月経前のイライラに対して加味逍遥散など有用な漢方は沢山ありますが補助的につかうことが多いです。軽度のうつ状態では漢方のみで対応することもあります。

その他:抗うつ剤の増強薬として、炭酸リチウム(リーマス)、アリピプラゾール(エビリファイ)、オランザピン(ジプレキサ)など併用することがありますが通常のレベルのうつ状態で使うことはあまりありません。


<環境調整>

職場において仕事の対人関係のストレス(パワハラ、セクハラ)、時間外労働が80時間以上、本人にとって全く向かない業務内容であった場合、配置転換、業務量低減などの環境調整が必要になります。休職については中等度以上のうつ状態であれば必要ですが、軽度うつ状態であれば医学的には休職は必須ではないと考えます(もちろん業務量や内容次第ですが・・・)。ただし休職する方が業務内容の変更など会社側(人事・産業医)と折衝しやすい場合などは休職の診断書を作成し態勢を立て直した方がいいこともあります。難しいのは本人の性格要因や脆弱性が病態の主体の場合です。本来なら頑張って会社に行くことが望ましい場合も、過去に嫌なことから逃げることを繰り返してきた方や単なるめんどくさがりな方などは身体が楽をすることを覚えており、うつ状態でなくても様々な自律神経症状(吐き気、動悸、頭痛)などを訴えて会社に行けない場合があります。試験前にお腹が痛くなって試験を受けられないなどと同じ理屈です。当院でも仕方なく休職の診断書は作成する場合も多いのですが、医学的には正しくはありませんね・・・。心身共に本人の成長を待つといった気長な治療になります。ただしこの環境調整は会社側の要因(大企業か中小企業か、精神疾患に理解があるかどうか、経営に余裕があるかどうか)などに大きく左右されます。会社側に余裕がない場合はいかなる理由があっても退職に追い込まれることも多いのが事実です。会社には安全配慮義務はありますが、主治医の診断書が絶対ではないのです。配置転換など最終的に本人の処遇を決定するのは会社側の権利なのです。もちろん就業規則などのチェックも必要です。また休職中に退職を決める方も多くおられますが、その後の再就職も難しいことも多いので衝動的に退職することは避ける方が望ましいです。特にうつ状態では判断能力が低下している場合も多いので、信頼できる友人や同僚、家族などに相談することも大事です。


<カウンセリング>

過去の生育歴、トラウマが背景にあり心理的問題が大きい場合に有効です。親子関係の問題などを背景に人に異常に気を遣う性格のために脳が疲弊しやすい方、彼氏彼女など人間関係のトラブルで悩んでいる方、生きることそのものに苦悩が強いなど脳の問題というよりはこころの問題が主体と考えられる場合は主治医の方からカウンセリングをおすすめさせて頂きます。


<認知行動療法(CBT)>

詳細は当院HPの「心理面接・心理検査」をクリックして「認知行動療法」の項目を参照下さい。当院でも心理士の先生が1回45分程度で行っております。うつ病で多くみられる否定的認知などの修正を自分でできるようにするためのツールです。特にうつ病の再発予防に有効ですのでご興味ある方は主治医に相談下さい。


<運動・食事療法>

午前中に30分程度、日の光を浴びながら散歩することで脳内のセロトニンの分泌が増加するので適度な運動はうつ状態の改善に有効です。また当院HPの「食事療法」にも記載しておりますが、腸活は有効です。脳の状態を改善するために腸内環境を整えるという発想です。その他、炭水化物、脂質、アミノ酸や添加物への配慮も必要です。詳細は当院HPの「食事療法」を参照下さい。


<治療のピットフォール>

最後によくある治療のピットフォールについて簡単にまとめます。

・本人の知的レベルの問題:意外と知られておらず、本人も周囲も把握していない場合が多いです。IQが70~84を境界知能といいますが、頑張れば普通程度にいけますが頑張らないと全然周囲についていけないことが多いです。本人も知らずに常に頑張っている方が多く非常に脳が疲れやすいです。このレベルのIQだと行政の助けもないため、何とか自分で頑張って生きていかないといけないため常に脳に強い負荷がかかります。特に第3次産業中心の現代社会では知的能力が重要になるので大変生きづらいかなと思います。

・発達障害・不安障害の合併:発達障害の特性で「睡眠リズムの障害」「とことん考えるが脳の疲労がわからない」「過集中・過活動⇔何もできないを繰り返す」「トラウマの影響を受けやすい」などあり脳が非常に疲れやすい傾向にあります。脳の機能にバラつきがあり安定していないこともうつ状態に結び付きます。また不安障害でも様々な場面や状況で常に不安・緊張が強くなるため脳が疲弊しやすい傾向にありうつ状態になりやすいです。

・双極性障害のうつ状態の場合:うつ病と双極性障害(躁鬱病)は全く違う疾患です。治療方針、薬剤も全く異なりますのでこの鑑別は非常に重要です。後日、双極性障害の診断・治療についてまとめる予定ですので是非参照下さい。

・疾病利得の問題:病気が長引いた方が経済的メリットが多い場合や心理的に得をする場合にうつ状態が改善しない場合があります。疾病利得という問題です。無意識的な問題でもありどうにもならないことも多いです。


以上、当院で行っているうつ状態・うつ病の治療についてまとめました。ただしうつ状態の原因は様々であり、治療について今回書ききれない内容も沢山あります。

次回はうつ状態の再発予防についてまとめます。