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発達障害 その(4)治療

2020年6月30日

Ⅵ.発達障害の治療

「発達障害の治療」と書きましたが、症状や特性によって改善するものしないものがあります。ここではそれぞれの症状・特性に合わせて、対処方法を書いていきます。またASDとADHDを分けずにまとめて書いていきます。発達障害においてASD+ADHDと両方の特性を持つ場合が多いからです。学習障害については今回は扱いません。

まず大きな前提として、当院は精神科のクリニックなので基本は精神症状に対する薬物治療や精神療法が中心となります。発達障害の症状については、精神症状というよりはむしろ特性といった方が近いものが多く、精神科における治療アプローチにそぐわないものが多いのが事実です。それを前提に、治療・対処方法について考えて参ります。


①社会相互性の障害・コミュニケーション障害に対して

発達障害の特性の一つに空気が読めない、人の気持ちが分からないというものがあります。周囲の人はその特性に対して「あいつは空気が読めないやつだ」「話が通じない」と怒ることが多いと思われます。ただしそれは、健常者というか発達障害でない方の、疾患の特性に対する理解が足りないことが背景にあります(仕方ない部分もありますが…)。

繰り返しますが、もし発達障害であった場合に人の気持ちがわからないというのは特性、症状なのです。例えば脚が悪くて歩けない症状の方に、なんであいつは歩けないのだとは普通は面と向かって批判しないですよね。これは精神疾患一般にいえることですが症状がみえにくいまたは分かりにくいために、どうしても周囲は批判的な対応となってしまうのです。治療というと発達障碍者がどうしたら空気を読めるようになるのか、人の気持ちを読めるのかに焦点があたってしまいますが、まずは発達障害者の立場に立つことが大切であると思います。もし健常者が発達障害者の立場に立った場合に世界がどのようにみえるかというと、言葉の分からない文化の全く違う海外に突然放り込まれた感じになると思います。言葉も通じないし、文化も違うし周囲に理解されないし、孤立傾向になるし、うつ病などにもなりそうですよね。あるいは「動物の気持ちを想像せよ」ということに近い位難しいかもしれないです笑。とにかく分からないことが多く社会生活すること自体にストレスを感じると思います。

発達障害者も社会の中で生きる中で徐々にではありますが、社会相互性やコミュニケーションの能力は身に着けていくのです。その意味では可能な範囲で社会の中で生きていくことも大事です。もちろん社会生活で疲れた場合はうまく自閉して引きこもって休むことも大事です。うまく休みつつ、社会の中で生きる、人の気持ちや空気を徐々にでもいいので学んでいく姿勢も大事だと思います。

ただし発達がゆっくりであるのでそれを本人も周囲も待ちきれないというのがあると思われます。またこの特性に対して周囲が怒りなどの感情で対応するため、後で述べるうつやパニック、対人恐怖などの2次障害を引き起こすことも多いです。

周囲の対応の仕方としては、感情をできるだけ入れないがポイントと思います。勉強のできない子に怒ってやらせようとしても決してできるようにならないですよね。他人や自分を傷付ける、あるいはひどい迷惑な行為以外であれば、淡々とした改善点の指摘を地道にすることが大事だと思います。また本人との距離をいかにとるかも大事です。距離を適切にとることで双方の感情がコントロールしやすくなります。ASDの自閉傾向のある方は、自閉をすることで脳を休めているので、下手に刺激しすぎないこと、自閉を守ることへの理解や配慮も大切です。


②こだわり・常同性に対して

ものの色や形、順序にこだわったり、特定のものを収集しているといった特性です。自我違和感といって自分でその症状に違和感を感じ何とかしたいと思った場合は強迫症状に相当します(最近のDSM診断基準では自我違和感の部分はなくなったので強迫症状とこだわりの境目は分かりづらくなっております)。

世間一般的な強迫症状としては手洗いが止まらない、確認行為が止まらないといった強迫行為と頭に数字が浮かんでとれない、不吉な考えが浮かんでとれないといった強迫観念に大きく分けられます。治療としては行動療法などもありますが、薬物治療が大きな役割を果たします。

発達障害の外来で本人がこだわりが強くて困るといったケースは少ないため、自我違和感は少ないと思われます。よって治療介入することもあまりないです。また症状自体も一般的な強迫症状とは異なることもあり、薬物治療の反応はよくないです。

不安が強くなったり体調を崩すと、こだわりや常同性が強くなることもあります。そのような心身の面への配慮も大切と考えます。


③感覚過敏に対して

音や光が苦手で、電車やバスでずっとヘッドフォンをしている方や常にサングラスをしている方がおります。また臭いに敏感で電車に乗れない方や、味覚過敏で偏食になる方など。触覚過敏でタートルネックのセーターや服が着れない方もいらっしゃいます。特に音に関しては困っている方が多く、周囲の音が気になって職場でも困っているといったことです。この治療に関しては難しく、薬物治療も奏功しないケースが多いです。薬によって音が気にならなくなっても頭がぼ~としてしまったりして副作用のため薬を使うのが難しいからです。耳栓などをしている方もおられますが、根本的な解決は難しいと思われます。


④多動・衝動に対して

大人の発達障害で多動で困ることは少ないと思います。貧乏ゆすりや身体が常に動いている方などおられますが困り感は少ないようですね。衝動性に関して困ることといえば、衝動買いと転職に関することが多いです。洋服、化粧品、小物グッズ、ゲーム課金、食べ物、書籍(読まない本)・・・様々なものを衝動買いして自宅が物で溢れている方がおられます。男性の場合はギャンブルも多いです。また衝動性は転職の多さにも関連していると思います。思いつきで仕事を変える方も多いですね。20歳代では何度転職してもあまり問題は生じないようですが30歳代で行き詰ってきて相談に来られる方もおられます。

多動・衝動について、グアンファシン(インチュニブ)が一定の効果があると思います。今まで診察室でも動き回っていた方が静かに座ることができたり、衝動買いが減ったりすることがあります。ただし低血圧の副作用やあまり元気がなくなるから飲みたくないといった方もおります。


⑤不注意に対して

これは主訴としては最多い症状、特性です。職場でミスが多い、自宅にスマホや鍵を忘れる、レポートの提出を忘れる、通院の日時を間違える笑などなどです。困っている方が非常に多い特性であります。なかなかこれをやればミスや忘れ物が減るといった特効薬はありませんが、以下の様なことをして対応している方が多いです。

・強迫的に確認する:当たり前といったら当たり前ですが、ミスをしないように何度も確認することです。これを繰り返すことで確認強迫のようになる方もいらっしゃいます。

・パターン化する:例えば鍵や財布を忘れないように同じ場所に必ず置き、外へでるときはその場所を通らないとでれないようにする。スマホを忘れないように、外では必ずスマホで音楽を聴くようにし、音楽聴こえない場合はスマホがないと判断するなど様々な工夫をされている方が多いです。

・いい人になる:周囲に助けてもらって何とかなっている方も多いです。助けてくれる人を周りにつくることも大切なことで、いいキャラでいることはプラスに働くと思われます。

・よく眠る:2次障害の所でも書こうと思いますが、疲れやストレスがたまると健常人でもミスや忘れものが増えます。それは発達障害の方も全く同じであり、とにかくよく眠ること、日常的に脳を休めることが大切です。

・薬を飲む:アトモキセチン(ストラテラ)やメチルフェニデート(コンサータ)により不注意症状が改善することがあります。薬の作用機序などの説明は割愛しますが、遂行機能障害も含めて改善の可能性があります。副作用、費用等で問題がなければ薬を飲んでみるのもいいと思います。

次回は2次障害についてまとめます。