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うつとうつ病 その(5)

2020年5月12日

最後にうつとうつ病に関連した項目についてまとめます。

Ⅰ.過去を悔やむ方について

うつ病では過去の後悔が多くの方で認められます。心理的にも過去に目を向けることに親和性があるようで、post festumともいわれております。過去の後悔についてうつ病の特異的な症状とまではいえませんが・・・。

過去は変わらないといわれておりますが、過去に対する評価は変わります。歴史的事実とその後の評価といった感じです。日本の歴史では日露戦争に勝ったことは当時はもちろんよかったこととされていますが、その勝利が後の太平洋戦争の敗北につながったともされておりトータルで考えると日露戦争での勝利の評価は五分五分またはマイナスですねという感じのことです。勝ちは負けの始まりともいえます。負けてもそこから何かが得られれば勝ちかもしれないです。負けによるメリットというか効用がみえてくれば、つまり「勝ち負けの概念を昇華」できれば脳には優しいかなと思います。人生万事塞翁はいいことわざで、物事の幸不幸は人間にはわからないということを端的に表しております。大学受験などで失敗してもそれがその後の成功につながる場合もあるし、逆にその後の成功がさらにその後の失敗につながる場合もあるということです。

今の状態がまずまずいい状態であると過去の評価は改善します。逆に今の状態が逆に悪いと過去の評価は下がるという特徴があります。私の診療の目標は過去への評価について本人の思いを無理に変えるということは目標とせず(というか無理には変えられないです)、現実的な生活や対応の仕方、人間関係などの改善、視野の広がりなどを通して自然に過去の評価があがるのを待つ戦略です。逆にそれ位しか過去への後悔を減らす戦略が思いつかないですね。

Ⅱ.老年期のうつについて

老年期の脳は身体と同じで特に回復力が弱いことがあげられます。足の骨折の治療と同じで若い人より骨が付きにくいので治療にはより時間と根気がいります。そもそも治らない場合もありますね。脳も老化するので回復力がない場合が多いです。またちょっとした負荷(ストレス)で容易に脳に疲れがたまり壊れやすいです。老年期の認知機能の低下はある意味で脳を守っている場合あり、物事を深く考えないことで脳に対して保護的であるとも考えられます。うつがはっきりせず頭痛、腰痛、胸痛、動悸、吐き気などの身体症状が主体のうつや認知症と鑑別の難しいうつもあり診断にも苦慮します。治療者としては非常に難しい部類のうつですね。やりがいはありますが、治療がうまくいかないケースも多いです。

老化現象のため治療に患者本人の自然治癒力を利用しにくいのが一番大きいですね。私の現在の診療の課題は老年期のうつ病と難治性うつ病です。例えるともともと足腰の弱った高齢者が骨折してその後ちゃんと歩けるようになることを目指す、何度も足の骨を骨折して複雑骨折しているのにどうしても歩いてしまい骨折が治らない方を何とかしていくイメージです。両者とも治療は難しいですね・・・・

Ⅲ.うつの利点

うつにも利点があるのでも知っておいたほうがいいです。うつになると強制的に頭が働かない状態になるのです。パソコンの強制シャットダウンに近いですね。脳が回復を目指して動作を止めるイメージでいいと思います。

うつなったことを感謝しなさいとはいいませんが、うつになることで強制的に脳が休まるのも事実です。そのおかげで不可逆的な脳の機能低下である認知症を防いでいる部分があると推測できます。スウェーデンの研究(Sindi,S et al(2017)Midlife work-related stress increases dementia risk in later life: The CAIDE 30-year study. J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci,72(6),1044-1053)では仕事上のストレスと認知症の発症リスクについて述べられており、50代の時に仕事でストレスを感じていた人は感じていない人に比べて認知症を発症するリスクは1.53倍となっております。 うつで脳がちゃんと休まれば認知症の予防になるかもしれないと推測は可能です(これは根拠がないです)。

Ⅳ.「死にたい・自分は駄目だ」について

希死念慮について。死とは究極の休養です(あるいはそのように勘違いされています)。本当に死後の世界があって休養になるかどうかはわかりませんが、脳はそう判断してしまいます。死にたくなる、この世から消えたくなるのは「休みたい」というメッセージを誤ってとらえた現象と思います。パソコンでいうとうまくシャットダウンできないのでぶん投げて壊してしまうイメージです。

自責感については背景はよくわからない場合が多いですが、うつ病で多いです。自責感が強くうつになるのか、うつが強いから自責感が強くなるのか不明ですが。自分を責めると脳にとっては非常に負担になります。善悪の概念で悪というのは非常に脳にとっても悪いのです。ですから自分が悪いという思考回路はうつの治療の妨げになります。本当は脳の使い方が悪いだけなのに脳自体が悪いと勘違いしてしまうのです。

以上でうつとうつ病の最終回を終わります。

日々診療しておりますが、この1か月でも沢山のうつまたはうつ病を抱えた方が来院されております。診療中にすべて口頭で説明するのは困難なので今まで書いたものを可能な範囲で読んで頂ければ幸いです。

このブログの内容をベースにして診療させて頂いております。今後ともよろしくお願い申し上げます。